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「大丈夫だよ。その為に鍛えるんだから」
そう言って笑う秀くんの肌は、所々が引っ掻かれて蚯蚓脹れ(みみずばれ)になっている。
よく見ると開けた(はだけた)胸元には、痣(あざ)になっている所まであった。
お兄ちゃん、痣になるほど思い切りぶったんだ。
「その傷……。秀くん、私のせいで……本当にごめんね」
涙で霞む視界。でも、あまりに痛々しい痣から逆に目を背ける事が出来ず、思わず凝視してしまっていた。
秀くんは一瞬、戸惑ったような表情になったけど、すぐにいつもの笑顔に戻って口を開く。
「美咲ちゃんのせいじゃないよ。それにこれ、今ついた傷じゃないから」
そして意識的か無意識かは分からないけど、一番酷い痣を私に見えないように隠した。
「えっ?」
今じゃないって、じゃあ、いつ誰にやられたの? 誰が秀くんにこんな酷い事したの?
この時の私は、時折お兄ちゃんが癇癪を起こして手をあげてくる以外、平和な生活を送っていた。
だから私は気付きもしないで聞いてしまった。何も考えずに。
「じゃあ誰がこんな事したの?」
私は泣き顔のまま秀くんの顔を覗き込む。
すると秀くんは数秒の間を置いて、困ったように笑いながら口を開いた。
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