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「今年の誕生日、祝ってやれねえから」
秀人はどことなく寂しそうな顔をして俯いてしまう。
「どういう意味?」
秀人の言葉の真意が分からずに問い直した。
すると秀人はため息ともとれるような深呼吸をした後、顔を上げてゆっくりと話し出す。
「俺、引っ越す事んなったから。明日引っ越し。だから誕生日祝ってやれねえんだよ。ごめんな」
秀人は優しく微笑むと、空いている左手で私の頭を軽く撫でた。
「引っ越しって……。そんな、突然……。本当に?」
私は突然の別れ宣告に混乱してしまう。
今まで秀人が何処かに行ってしまうなんて考えた事もなかった。そこに居るのが当たり前の存在だった。
それが突然――。
私は秀人が返事をする前に質問を重ねた。
「なんで? 何処に行くんだよ? 明日って、突然過ぎだろ。なんでもっと早く……」
私は今にも零れそうな涙を必死に堪えながら言葉を紡ぐ。
秀人を責めたってどうにもならない。秀人が引っ越すって事実は変わらない。
なのに私は責めるような物言いで問いただした。
行って欲しくない――。
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