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なんか私、秀人を困らせてるだけだな。引き止めたってどうしようもないのは分かってんのに。
そうは思いながらもまともな返事が出来ない私は無意識に話題を変える。
「康くんたちには言ったのか?」
康くんたちというのは、秀人が一番仲の良い男友達のグループで、私も昔からよく遊んでいたメンバーである。
「なんか言い出せなくてさ」
秀人は小さく首を横に振った。
つまり秀人は、明日には引っ越す事が決まって、今日しかない貴重な時間を私と過ごしてくれた訳だ。
その事実は凄く嬉しいけど、やっぱり素直に喜べない。
明日には秀人は行ってしまう。今までみたいに遊ぶ事は出来ないんだ。苦しい時、秀人の笑顔に癒してもらう事も――。
だからって悲観してばかりはいられない。せっかく秀人がくれた貴重な時間。精一杯応えて送り出してあげたい。
「そっか。秀人、ありがとな。最後の誕生日プレゼント、ずっと大切にするから」
私は出来る限りの笑顔を浮かべて、秀人からプレゼントを受け取った。
「最後なんて言うなよな。絶対また祝ってやるからさ」
秀人は寂しそうに笑うと、再び私の頭を撫でる。
その言葉が本当に実行されるかどうかなんて今の私には分からないけど、少しだけ胸の苦しさが和らいだ。
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