卒業

5/5
前へ
/76ページ
次へ
学校を出てから明彦は黙ったまま 車を走らせる。 「…どこ行くの?」 私が聞くと、明彦は笑って 「内緒」 と言う。 「…会社…大丈夫だった?」 私の卒業式のために、わざわざ有給を取って休んでくれた明彦を気遣って聞くと 「普段真面目に仕事してるから、全然問題なし」 と明彦は笑っている。 車はそのまま、海沿いの道に出た。 春の海がキラキラと眩しく輝いている。 私はCDケースから、あの何も書かれていなかったCDを引っ張り出してステレオに差し込んだ。 あの日と同じ、サザンのTSUNAMIが流れ出す。 「…やっぱ窓開けて聴かないと!」 私がいそいそと窓を開ける姿を見て 明彦はクスクス笑っている。 海沿いの道を進んだ車は、 あの日と同じパーキングに滑り込む。 「あ…ここ…」 明彦を見上げると、ニコっと笑って 「俺と結衣が始まった場所」 と言った。 車を止めて、私と明彦は手を繋いで 海岸に降りる階段まで歩いた。 あの時のように私を後ろから抱きしめて 海をじっと眺める。 まだ少しだけ冷たい風が 私と明彦を包み込んだ。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2147人が本棚に入れています
本棚に追加