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学校を出てから明彦は黙ったまま
車を走らせる。
「…どこ行くの?」
私が聞くと、明彦は笑って
「内緒」
と言う。
「…会社…大丈夫だった?」
私の卒業式のために、わざわざ有給を取って休んでくれた明彦を気遣って聞くと
「普段真面目に仕事してるから、全然問題なし」
と明彦は笑っている。
車はそのまま、海沿いの道に出た。
春の海がキラキラと眩しく輝いている。
私はCDケースから、あの何も書かれていなかったCDを引っ張り出してステレオに差し込んだ。
あの日と同じ、サザンのTSUNAMIが流れ出す。
「…やっぱ窓開けて聴かないと!」
私がいそいそと窓を開ける姿を見て
明彦はクスクス笑っている。
海沿いの道を進んだ車は、
あの日と同じパーキングに滑り込む。
「あ…ここ…」
明彦を見上げると、ニコっと笑って
「俺と結衣が始まった場所」
と言った。
車を止めて、私と明彦は手を繋いで
海岸に降りる階段まで歩いた。
あの時のように私を後ろから抱きしめて
海をじっと眺める。
まだ少しだけ冷たい風が
私と明彦を包み込んだ。
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