15人が本棚に入れています
本棚に追加
シドは驚くようすもなく、呆気にとられている訳でもなく、さっきまでいたマンションを見詰めていた。
どうやら一周して冷静になってしまたみたいだ。
現にシドの中は興奮が冷め止まない、もう一度いまの感覚を味わいたい。
そして、目的の方角を向くといま立っているマンションの2倍はあるビルが立ち、シドを更に高揚させる。
脚に全神経を集中させ、膝を曲げて力を蓄える。
奥で歯が擦れる音を合図に膝を一気に伸ばし、爪先で屋上を蹴った。
屋上にはその衝撃でヒビがはいり、シドはビルの天辺に向けて跳び上がった。
だが、あと少しの所で届かなかった。
無理と判断したシドはビルの壁を掴んだ。
指が壁に突き刺さり、体が止まる。
「無理か…」
そう呟いたが、彼の口元は笑みを作っていた。
指を突き刺したまま、懸垂を利用して屋上に跳び上がり、シドは街を見渡した。
「これが俺の街か…殺風景だな。家は………あのアパートか?」
ここから見渡せる近くのボロいアパートがシドの家だ。
妹が言うのだから間違いないだろう。
シドは屋上の端に下がり、助走をつけて跳んだ。
最初のコメントを投稿しよう!