名も知らぬ花

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いや、花というよりも二枚貝が開きそうな……貝? そう言えばどこかで……。 ――あぁ、アワビに似ている。 「ふふっ、アワビ……確かに似ているわね。でも、あんなに黒くてグロテスクじゃあないでしょう」 確かに薄い桜色の割れ目……今にも開きそうなツボミは良く見れば見るほど引き寄せられる。 ツボミの隙間からはピンクの花が僅かに見える。 もっと近くで見てみたい。 「興味津々って所ね。是非とも、近くでよく見てちょうだい」 言われるままに近づいて行く。 ついに俺は四つん這いになって、目と鼻の先となった。 花びらは、霧吹きをしたのか、キラキラとではなくテカテカと湿っている。 ――おじぎ草とは違うけど、息をするように、動いている。 「生きているって証拠よ。」 そう……なのか。 ここまで活発に動く花は珍しい。まさに呼吸をしている様な動きで、目を奪われる。 ニオイもだんだんとキツくなってきている。 鼻の奥を刺激する、本当に嫌なニオイだった。 慣れたのか、逆にもっと強いニオイを吸いたくなる。 犯人を探す警察犬のように、鼻を鳴らしながら更に近づいていく。 鼻の奥を突くニオイは、いつの間にか頭の後ろがしびれてボーッとしてくる。
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