名も知らぬ花

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花に誘われる虫ってこんな感じなのだろう。 「クンクン鼻をちかづけて……フフッ、犬みたい。ねぇ、触ってみない?」 クスクスと笑い声を含む声に気がつくと、鼻の先が僅かに触れるほど近づいている。 声に振りかえるために、ゆっくりと離れて彼女の顔を見る。 ――え? 触っていいのか? 「ええ。その花は特殊でね、指で開くの」 ――指で? どうやって? 「花びらの真ん中辺りに親指をあてがって……」 ふっくらとして濡れている二枚の花びら。 彼女に言われたように親指をあてる。 ――暖かい? 「熱を発する花なの。凄いでしょう?」 『ハス』や『ヒトデカズラ』は開花期間中に一定の温度に保ったりすると言うが……これは、暖かいというよりも熱い。 それと、濡れているのは、手入れのための霧吹きだと思っていた。 しかし触ってみると、ヌルっとして、でもベタつかなくて。 ――これは樹液? 「違うよ、花の蜜よ」 ツツジやサルビアの蜜は舐めた事があるが……。 蜜がある花は花の中に貯めている。だがこれは、花からじわじわと溢れてきているのだ。 ――凄い、溢れてきている。 「でしょう? 開くともっと凄いのよ?」 期待に胸が高鳴り、緊張のあまり、びっくりするほど極めて落ち着いている。
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