名も知らぬ花

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綺麗とか美しいとかしか知らない俺が恥ずかしい。 それほどまでに俺を虜にしている。 ――ごめん。見とれていた。 「仕方ないよ。花を知らないわたしが見ても、綺麗だから」 俺は花屋で仕事をしていて、興味があって、彼女よりも少しだけ詳しいだけだ。 ――ありがとう。こんなにも素晴らしい花に会わせてもらって。 彼女に振り返ると、満面の笑みで、俺を見ていた。 「お礼なんて、いいわよ。さて、最後に上の部分だけど……」 銀色の先は、一番上の丸いところ。 一枚の花びらの中には、大きなくぼみのあるめしべと排出機構。 厳密に言えば一枚ではない。丸いモノは、別に花びらで包まれている。 「ここが一番敏感な部分。おしべが退化したって説があるの」 敏感……モモの実みたいに触ると黒ずんでしまうのか? 退化って既に受粉をした後なのか? もはや、俺の知っている花や植物の知識を凌駕している。 「さてと、この花の説明はだいたいこんなものかな。次は、蜜の味見ね」 視界からスッと消えた、銀色はどうぞといっているようだ。 ――でも、どこを? それほどまでに全体がトロトロと、とめどめなく溢れ出していて。 「……めしべがいいわ」
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