名も知らぬ花

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「そうよ。ほら、白く濁ってきたでしょう? すごく喜んでいるからなのよ」 ――本当だ。 タンポポの茎から出るほど真っ白ではないが、ジワジワと染み出してくる。 ――これが、喜んでいるの? 「ええ、そうよ。私なんてこの花と付き合い長いのに……簡単に見れるなんて、ちょっと羨ましい」 おどけた口調で言う彼女に見向きもせず、白い液体を人差し指ですくい親指ですり合わせる。 学校で使うのりのようにぬるっとした粘り気を帯びている。ゆっくりと指を離すと、つーっと親指と人差し指に糸をひいた。 糸は中指までたるんでプチッと綺麗にではなく、ブツリと未練がましい感じで切れる。切れたそれぞれの糸は手のひらに感触もなく張り付く。 そのまま指を鼻に近づけて嗅ぐ。めしべと同じ、酸っぱくて臭くて、頭に響くにおいだ。 口に近づける。 最初のように恐る恐るではなく、思い切って舐め取る。 塩辛い。 舐めていたら塩分過剰摂取になるだろう。 でも、なんでこんなにも。 こんなにも美味しいんだろう……。 「うわぁ、音まで立てて……そんなに気に入ったの?」 はじめはきっと、ペロペロと犬が水を飲むようにしていた。
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