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とてつもなく素晴らしい野望を抱きつつ更衣室へ。しかし結果は……
「きゃー!! 変態!」
どうやら、この携帯電話は、よこしまな気持ちを見破るらしい。なんてつまらない、あ、いや、よく出来ているのか。
いろいろと経験を重ねていくにつれ、俺はその携帯電話を徐々に使いこなせるようになっていった。欲望をかなえようとしても効力を発揮しないが、それ以外なら、きちんと人に成りかわれることがわかっていった。毎日のように研究を重ね、俺は徐々に、その使い方を得とくしていった。
そんなある日のこと……
――ピンポーン
アパートの俺の部屋のチャイムが鳴った。ドアを開くと、そこには背の小さい一人の女性が立っていた。目はぼさぼさの前髪で隠れ、異様な風体だった。
「あの、どちらさんでしょう……」
首をかしげながらそう聞いた俺に、その女性は低い声でつぶやいた。
「その携帯電話で、人助けをしませんか」
――な! なんで知ってるの?
俺を驚かせたその女性こそ、パートナーであるヒトエだった。
彼女は、圧倒的な存在感で俺の心をわしづかみにした。俺は、そんな彼女に導かれるかのようにうなづき、今に至っている。
ヒトエは、人の言う事が本心か否かを、即座に判断できる不思議な能力があるらしい。よこしまな考えの持ち主が依頼にきても、ヒトエは決してイエスと言わない。ヒトエが現れてからというもの、彼女が認めたときのみ、人に成り代われることができるようになった。そんなこんなで、このさびれた街でこの商売を始めたというわけだ。
他人に成りすますのは、時には楽しい。しかし、商売になると、楽しいだけでは済まされないこともある。なぜなら、ある意味、その人の人生を握ってしまうからだ。成りかわっても、常にいい方へかわるとは限らない。万が一、不幸にしてしまったら、それこそ取り返しがつかないのである。それに、危険なミッションも少なくない。時には、命の危険にさらされることだってある。意外と因果な商売なのだ。
まあそれでも、困ってる人を見ると、なんとかしてやりたくなる。せっかくこんな能力を手に入れたのだから、使わなきゃ損だ。
人の望みをかなえ、感謝されるというのは、結構性にあっているのかもしれない。
今でも続いているところをみると、ね。
「あ、あの? サイン、終わりましたけど」
瀬戸の声にはっとして我にかえった。
「ああ、すいません。えっと、たしかに」
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