成り代わり

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4 ――うわー! こりゃでかいな……  火の車産業へ行ってみると、そこは地上二十階はあろうかという巨大なインテリジェントビルだった。壁面は総硝子貼りになっていて、ビル全体に周りのビルが映し出されている。最上階には、赤い文字で「火の車産業」と書かれている。いったい、なんの会社なのか、それすらもよくわからないが、とにかくここでコピーマシンを契約すべく、営業活動を開始した。 ――ええと、総務の金子さん、だったな……  ビルの正面には、筒状の大きな丸い硝子の回転扉がある。そこを入ると中は広い吹き抜けのフロアになっていた。壁はこげ茶色を基調にしたシックなたたずまいだ。床は人造と思われる大理石が敷き詰められていて、照明を反射してキラキラしていた。左右を見回すと、右の奥に受付がある。そこには女性が二人、並んで座っていた。俺は、まずそこへ向かって歩き出した。俺が近付くと、二人いる受付嬢のうちの一人がやんわりとほほ笑みつつ、声をかけてきた。 「いらっしゃいませ」 近くで見ると、二人ともモデル張りのルックスで甲乙つけがたい美人だ。また、メイクもばっちりで、肌はラメのようにキラキラと輝いて、さながら蝶の燐粉のようである。そして、ほのかにシャンプーのような香りがした。 「島野商会の瀬戸と申します、恐れいりますが、総務部の金子様はいらっしゃいますでしょうか……」  低姿勢でそうたずねる。 「では、お名刺を拝借してよろしいでしょうか」 すると受付嬢は、名刺を要求してきた。 「ああ、はい」  スーツの胸ポケットから瀬戸の名刺入れを取り出し、中から名刺を一枚抜くと両手で持って受付嬢に渡した。彼女はそれを受けとると 「少々お待ちください」 と言って目の前の受話器を取り、ダイアルボタンを三箇所ほど押した。 「あ、受付です。島野商会の瀬戸様が見えていらっしゃるのですが……」 ――なんとか、面通ししてもらえると助かるが…… 俺はそんなことを考えつつ、受付嬢の様子を、固唾を飲んで見守った、すると数秒して受付嬢は受話器を置くと、俺の顔を見た。 「では、こちらのバッヂを着けてお願いします」  ――よし! まずは第一関門突破だ! 俺は心の中で小さく拳を握りつつ 「はい、お世話になります」 と言ってバッヂを受け取り、胸につけながら二、三歩進んではたと気付き、振り返って再び受付嬢にたずねた。 「すみません、総務部って何階でしたっけ……」
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