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「二階でございます」
受付嬢はにっこりとほほえみ、右手でエレベーターを指した。
「どうもありがとう」
軽く会釈をし、エレベーターのボタンを押す。二階に上がると、真正面に“総務部”と書かれているプレートが貼ってあるドアが視界に飛び込んできた。
――ここか、総務部は……
ドアを開けると、まず小さいカウンターがあり、その先は曇りガラスのパーテーションで仕切られていた。カウンターには電話機、そしてクリアケースに入れられた席次表が置いてあった。
――ええと、金子、金子、と……あった! 内線の……
俺は受話器を取り金子氏の内線ボタンをプッシュした。
――プルル、カチャッ
「はい、総務部です」
ワンコールで女性が出た。
「恐れ入ります。島野商会の瀬戸と申します。金子さんに面会に伺ったのですが……」
そう言うと電話の先で
「はい、ではどうぞ中にお入り下さい」
という声。
「はい、では失礼します」
受話器を置き、中へ入って全体を見回した。すると、四十代ぐらいの男性が席を立ち、こちらへ向かってくる。
――彼が金子氏、かな?
「ええと、いつもお世話になってます」
半信半疑ながらとりあえずその男に話しかけてみた。
「ああ、じゃああちらで……」
男は、部屋の隅にある応接セットのほうへ俺をいざなった。
「あ、すみません、では失礼します」
と言って男のあとを歩いてついてゆく。男は、デスクとデスクの間をすり抜けるように歩き、やがて黒い革張りのソファの横で足を止めた。
「じゃあ、どうぞ」
「ああ、では失礼します」
言われるままに奥のソファへ腰をおろした。男は俺の斜め向かいにどっかと座りこむ。
「お忙しいのに、すみません」
「いや、別にかわまんですよ。で、今日はどうなさったんですか?」
「ええ、コピーマシンですが、どうですか? 調子のほうは」
「ああ、コピー機ね、そうですねえ、うちも、もう何年も使ってる機種が増えてはきましたけどねえ」
そう言って、お茶を濁す男。
――だから、お前んとこはもうすぐリースアップするマシンが五十台あんだろが……
俺は内心、そう思いつつ切り出した。
「どうですか? 新しい機種への切り替えなんかは、お考えにないです?」
「新しい機種ねえ……リース料は、どんな感じです? 安いのかしら」
――リース料か、まだそこまでは頭に入ってないんだよな……
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