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「そ、そうですね。例えば、今お使いの機種よりもワングレード高いものを、現行のリース料のベースでやらせていただくのは可能かと思うのですが」
あせりつつも、とりあえず口からでまかせを言った。
「じゃあ、もしカタログとかあったら置いていって下さい」
男は俺のかばんを指差す。
「かしこまりました」
言われるまま、かばんからカタログを数部、取り出してテーブルに置く。
「ええと、こういったお願いは今でも金子さんにご相談すればよろしかったですか?」
そして、さりげなく探りを入れた。
「そうですね、自分に言っていただいてかまいませんよ? まあ決めるのは上ですけどね」
男はカタログを手に取り、パラパラとめくった。
――やっぱ、こいつが金子か……
目の前の男が金子だととりあえずは確認できた。しかし、決めるのが上の人間だとしたら、こんな下っ端では話も通してくれるか微妙だ。どうせならダメ元で上の人間にぶち当たってるか。
「ええと、こういうのって、どなたがお決めになられるんでしたっけ」
再び探りを入れてみる。
「まあ、こういったことはすべて、専務に話を通してからですね」
金子はカタログに目を通しながら言った。
――専務か……
どうやら、この会社で一番権力があるのは、専務らしいと俺は直感した。
「専務さんですか。でしたら、専務さんの鶴の一声でもあれば契約してもらえたりしますかね」
ちょっと含み笑いをして冗談っぽくたずねてみる。
「まあねえ。専務の言うことは絶対、ですんでねえ」
金子は苦笑いを浮かべた。
「そうですか……ちなみに専務さん、今日はいらっしゃるんですかね」
「さあ……会社じゃ滅多に見ませんがね」
金子はそう言って、再び苦笑いを浮かべた。
「そうですか」
俺も愛想笑いでかえす。金子は、手にしていたカタログを閉じて手の中に丸めると、俺の顔を見た。
「では、これは検討しておきますよ」
――そろそろ帰れ、ってことだな……
「では、お忙しいとこすみませんでした」
雰囲気を察した俺は席を立ち、総務部をあとにした。
廊下に出てエレベーターホールまで歩きながら、しばし考える。
――これで、一応瀬戸が営業に来た事実はできた。これで専務の写真を撮り、成りすますことができれば、鶴の一声で総務部に圧力をかけられる。それができれば、契約は難なく成立するぞ?
そう企んだ俺は、専務室を探すべくエレベーター横の案内板へと向かった。
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