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――ええと専務室は、と……あった! 十八階だ!
すかさずエレベーターに乗り込み、十八階のボタンを押した。
――チーン
エレベーターが十八階に到着した。ドアが開くと、正面に大きく社名のロゴマークをプリントされたプレートが掲げられている。その両脇には観葉植物が置いてあった。右のほうに通路は伸びていて、数メートル先にパーテーションの仕切りが置かれている。床は、グレーのカーペットだったさきほどの総務部とは違い、重厚な青のカーペットで、趣がまったく異なっている。
――専務の部屋は、こっちのほうかな……
ゆるゆると、その通路を進んでいくと、パーテーションの奥から女性の話し声が聞こえてきた。
――秘書、かな……
固唾をのんで聞き耳を立てる。どうやら、女性は電話の相手と会話しているらしかった。
――カチャッ
しばらく耳をそばだてていると、受話器を置いた気配がした。俺は、やおらパーテーションから顔をのぞかせた。
「こんにちは」
中にはインテリ風のメガネをかけ紺色のスーツをビシッと決めた女性が一人、デスクについていた。
「どっ! どなたですか!」
彼女は、俺に気付くと、目を丸くしてこちらを見た。その表情は、不審者でも見るように不安げだった。とにかく、専務の実物を拝む前に不審者として追い出されてはかなわない。
「えと……専務はいらっしゃいますか」
俺は、低姿勢になり、柔らかい物腰で言った。
「専務は本日出社の予定はございませんが」
俺の言葉に、女性はすかざず答えた。かなり警戒している様子がうかがえた。
「そうですか……お忙しいんでしょうね……」
――やはり、今日は不在か……さて、どうしよう……
迷っていると、その女性は目をしかめて俺の顔をのぞきこんできた。
「あのー、どちらさまでしょうか」
その表情は、確実に俺を怪しんでいる。俺が専務の知り合いかどうか半信半疑なのだろう。ここで彼女の心象を害すると、また訪問する時の足枷にもなりかねない。
「ああ、すみません。実は以前、専務にちょっと世話になったもので。ちょっと近くにきたもんでご挨拶でも、と……」
俺は、とりあえずその場をとりつくろった。
「でしたら、次回からはお約束をいただいてからにしていただけますか? なにせお忙しい方なので」
彼女は、いくぶん緊張から解かれたような面持ちになった。
「そうですよね、大変失礼しました」
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