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女性に軽くお辞儀をし、とりあえずその場を去った。やはり正面突破には無理があったようだ。
――専務に会うため毎日来たとしても、いつ会えるか解らんなあ。さあて、どうするかな……
あれこれ考えつつ、とりあえずエレベーターに乗り込み、一階を目指す。すると、途中の階でエレベーターは止まり、白いツナギを着た清掃員が二人、モップ片手に乗り込んできた。一人は五十がらみの中年、もう一人は茶髪の若者だった。入ってきた瞬間、ワックスのような匂いが個室に広がった。二人は、奥にいた俺とドアの間に、横に並んで乗り込み、地下一階のボタンを押した。エレベーターが動きだすと、二人のうち中年のほうが茶髪の男に話しかけた。
「おい、今日はあの若けえの、どうした?」
「ああ、アイツすか? 一回来ただけで無断欠勤すよ……」
茶髪の男は、首を回しながら言う。
「だめだなあ……ああいった若い奴は……」
中年は、呆れた様子で、階数を表示するパネルを見上げた。その様子を後ろで見ていた俺は、一人ほくそえむ。
――清掃員か、こいつは使えそうだ……
エレベーターは一階に到着し、俺は一人、エレベーターを降りた。フロアに出てエレベーターの扉が閉まると、彼らを尾行すべく、横にある階段で地下一階に下りる。
――おっ! いたいた!
エレベーターを降りた彼らは、まるで迷路のようにくねっている通路をすりぬけ、やがてある部屋に入った。近づいてみると、ドアには清掃員控え室、と書いてあった。
――ここが控え室か……さて、どうするか。
左右を見回すと、控室の隣に扉がある。ドアの中心部はガラスになっていて、中の様子が見えた。電気はついてなく人のいる気配はない。よく見ると、奥にスチール製のロッカーが確認できた。
――更衣室か、こりゃ好都合だ!
さっそく中へ入り、物色する。すると、クリーニングに出すであろう、汚れたツナギが無造作に積まれていた。いかにも汚れきっていて、におってきそうである。
――これ、あんま着たくねえなあ……
みけんにしわを寄せつつ、さらに奥へと進み、ロッカーを探る。すると、あるロッカーの中にクリーニング済みのビニールに入ったツナギが数着、重ねられていた。
――ラッキー! これならいい! これで変装して潜り込むか!
すぐさまツナギに着替え、鏡の前に立ってみる。
――やはり、顔も細工しないとやばいかな……
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