0人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいじゃないっすか! やらせれば」
すると横の茶髪は漫画を読みながら、またもチャラい口調で言った。その茶髪の言葉を聞いた中年は、軽くうなづいた。
「ほか? んじゃあ、十階から始めててくれっか?」
「はい! じゃあ、先やってます!」
俺は、素早いフットワークでワゴンを押し、部屋を出た。
そして、エレベーターにワゴンごと乗り込むと、十八階のボタンを押した。
――これで、専務室に忍び込めればめっけもんだな……
エレベーターはノンストップで十八階に到着した。俺はワゴンを押し、フロアに出る。そして帽子を目深にかぶり直すと、さきほど秘書がいたほうへ通路を進んでいった。パーテーションより中に入ると、秘書はパソコンに向かい作業をしていた。
「お疲れ様でーす!」
俺は、いくらかトーンの高い声で元気よく挨拶をした。秘書はこちらを見たあと、壁の時計をチラッと見た。
「あれ? 今日は早いんですねえ」
と言ったあと、再びパソコンに視線を移した。
――しめしめ……気付いてないぞ?
俺は、ワゴンをガラガラと押し、奥へと進んでいった。すると、突き当たりに木目調の重厚な雰囲気の扉があった。
――ここが専務室だな、ちょっと失礼、っと……
俺は、いったん後ろを振り返ったあと、そのドアを開け中に入った。
中は、十六畳ほどの広さがあった。窓際には重厚な雰囲気の机、壁には絵画、そして茶色い革張りのソファー。いかにも重役の部屋、という感じだ。机の横には、ゴルフのパターが数本、そしてその横にパッティング練習のマットが置いてある。どうやら専務はゴルフが好きらしい。
――もしかすると、今日もゴルフかもしれんな。
などと思いつつ、机に近づき物色してみる。
机の上にはシガーケースにシガレットケース、ゴルファーの像を模した卓上ライター、そして百円ライターが置いてある。専務は結構なヘビースモーカーのようだ。百円ライターを手にとってみる。
――なになに? スナック「蘭」か、遊んでんなー専務……
ライターを元に戻し、更に机の上を見ると、黒い表紙のスケジュール帳が目に付いた。
――ちょいとすいませんね……
ドアのほうに注意を払いつつ中をめくってみると、専務の予定がびっしり書かれていた。
――おっ! こいつはラッキーだ。これを調べれば、専務に会えるぞ? ええと、今日の予定は? ……なんだ、やっぱゴルフじゃん。
最初のコメントを投稿しよう!