成り代わり

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 どうやら専務は千葉でゴルフをしているようだ。  ――千葉か、これから会いに行くってわけにはいかんなぁ…… スケジュール帳を閉じ、次に引き出しを開けた。まず目についたのは、ものすごい数の名刺だった。  ――こりゃすごい数だな。 名刺はケースに入れられ、引き出しの中所狭しと並べられていた。そのケースの一つを手に取り、名刺を取り出して一枚ずつ見ていった。 ――さすがに専務ともなると、かなりの人脈を持ってそうだな……ん?   見ていくと、他のものと大きさの違う、角を丸く切ったお洒落な名刺が数枚あることに気付いた。  ――なになに? スナック蘭って、あ! さっきの…… 机の上のライターを確認する。思った通り、同じスナックの名刺だった。  ――これ、全部同じ店のか。相当通ってるクチだぞ? ……まてよ? ここまで通い詰めているなら、今夜あたりもゴルフ帰りにこの店に寄るかもしれん。もしかしたら専務に接触できるかもしれんな。  俺は、その店の名刺を一枚拝借してズボンのポケットに詰め込んだ。更に、その下の引き出しを開けると、数枚の写真が目に付いた。手に取ってよく見てみる。それも、大きな魚を抱えた壮年男性が写っている。 ――これ、専務か? あ! そう言えばあっちにあったのは……  もう一度壁を見てみると、絵画の他に数点の魚拓も貼ってある。近づいて見てみると、魚拓はカンパチ、真鯛、ヒラアジなど数点あり、どれもかなりの型である。 ――ゴルフに釣りに女、いい身分だねえまったく。それにしても、こいつはかなりの大物だ……  百八センチと記してあるヒラアジの魚拓を指でピンとはじいた。 ――さあて、こんなもんかな…… 一通り物色を済ませた俺は、ワゴンを押し木目調の扉を開け外へ出た。通路へ出ると、秘書は相変わらず熱心にパソコンに向かいキーを叩いていた。 「専務のお部屋、終わりましたー」 俺は秘書の背中に向かって声をかけた。 「はい、ご苦労さま」 と、秘書は振り向かずに俺をねぎらった。 「じゃあ、失礼しまーす!」 ワゴンを押しエレベーターの方へ進む。その間、秘書は終始、こちらを向かず仕事に集中していた。 そそくさとエレベーターに乗り込み、しめしめとばかりに地下一階のボタンを押す。 ――かなり収穫あったな。
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