0人が本棚に入れています
本棚に追加
どうやら専務は千葉でゴルフをしているようだ。
――千葉か、これから会いに行くってわけにはいかんなぁ……
スケジュール帳を閉じ、次に引き出しを開けた。まず目についたのは、ものすごい数の名刺だった。
――こりゃすごい数だな。
名刺はケースに入れられ、引き出しの中所狭しと並べられていた。そのケースの一つを手に取り、名刺を取り出して一枚ずつ見ていった。
――さすがに専務ともなると、かなりの人脈を持ってそうだな……ん?
見ていくと、他のものと大きさの違う、角を丸く切ったお洒落な名刺が数枚あることに気付いた。
――なになに? スナック蘭って、あ! さっきの……
机の上のライターを確認する。思った通り、同じスナックの名刺だった。
――これ、全部同じ店のか。相当通ってるクチだぞ? ……まてよ? ここまで通い詰めているなら、今夜あたりもゴルフ帰りにこの店に寄るかもしれん。もしかしたら専務に接触できるかもしれんな。
俺は、その店の名刺を一枚拝借してズボンのポケットに詰め込んだ。更に、その下の引き出しを開けると、数枚の写真が目に付いた。手に取ってよく見てみる。それも、大きな魚を抱えた壮年男性が写っている。
――これ、専務か? あ! そう言えばあっちにあったのは……
もう一度壁を見てみると、絵画の他に数点の魚拓も貼ってある。近づいて見てみると、魚拓はカンパチ、真鯛、ヒラアジなど数点あり、どれもかなりの型である。
――ゴルフに釣りに女、いい身分だねえまったく。それにしても、こいつはかなりの大物だ……
百八センチと記してあるヒラアジの魚拓を指でピンとはじいた。
――さあて、こんなもんかな……
一通り物色を済ませた俺は、ワゴンを押し木目調の扉を開け外へ出た。通路へ出ると、秘書は相変わらず熱心にパソコンに向かいキーを叩いていた。
「専務のお部屋、終わりましたー」
俺は秘書の背中に向かって声をかけた。
「はい、ご苦労さま」
と、秘書は振り向かずに俺をねぎらった。
「じゃあ、失礼しまーす!」
ワゴンを押しエレベーターの方へ進む。その間、秘書は終始、こちらを向かず仕事に集中していた。
そそくさとエレベーターに乗り込み、しめしめとばかりに地下一階のボタンを押す。
――かなり収穫あったな。
最初のコメントを投稿しよう!