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スナックの名刺の入ったズボンのポケットを、ぽんぽんと叩いた。地下一階に到着し、忍び足で控え室の前に立つ。部屋の中は暗く、気配はない。
――カチャッ
開けてみると、例の二人の姿はなかった。どうやら十階で作業をしているらしい。となれば、長居は無用、探しに来る前に退散だ。
すぐさま隣の更衣室に入り、来ていたツナギをクリーニングへ出すカゴへと放り投げ、ロッカーにしまったスーツに着替えた。そして、何食わぬ顔で一階に上がった俺は、受付嬢に軽く会釈をし、ビルを脱出した。
――ふう、なんとかバレずに忍びこむことが出来たな……
たった今まで潜入していた火の車産業ビルを外から眺めつつ、腕時計を見る。
――もう十一時半か。夜は専務のスナックへ行くとして、午後からもう一件ぐらい営業をかけるか。その前に、腹ごしらえだ。
あたりを見渡し、近くにあったファストフード店へ入る。トレーを手に席へ着くと、瀬戸の手帳を開いた。
――ええと、このあたりの会社はリストにないかな……あった! ええと? 東西南北エンジニアリング? プラント建設会社、か……
どうやら手帳によると、かなりの大口先らしい。しかし、担当者名は書かれてなかった。
――もしかすると、これから営業をかけるつもりだったのかもしれんなあ。担当者がわからないとなると、飛び込みの営業では中に入るのも骨が折れそうだ。まあしかし、とりあえず行ってみるか……
俺は、気合を入れバーガーをぱくついた。
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