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――あれが総務か。さてさて、どんな作戦で行くかな……
とりあえず、総務部をのぞくべくドアを開けた。総務部は広く、数十人の社員が仕事をしていた。
――こりゃ、相当な人数だな。ん? なんだこりゃ……
ふと、部屋に入ったところに置いてあった箱に気付いた。
――フタがしてないぞ?
中をのぞいてみると、IDカードが数十枚、輪ゴムで束ねられている。そのわきには、IDカードを入れるケースと、首から下げるストラップも入っていた。カードを手に取ってみると、どうやらそれは新しく配属される社員に配るものらしかった。
――こりゃあ、いいアイテムをゲットしたぞ! これで社員に成りすまして社内を動いてみるか。
左右を見回し、人目を気にしつつ、胸の来訪者バッヂをポケットに入れ、IDカードを首からかけ、ひとまず廊下へ出た。
――さあて、どういった作戦で行こうかな……
あれこれ思案しながら歩いていると、俺の背後から
「ちょっとすみません、すみません……」
と、声が聞こえた。振り返ると、ファイルを山のように積んだ台車がこちらのほうへ向かってきた。台車は、人の行き交う廊下をフラフラしながら蛇行していた。無造作に積まれたファイルは台車が動くほどにユラユラと揺れている。
――ありゃあ、そのうち崩れるぞ?
そう思って見ていると、案の定、台車がコーナーを曲がる際にファイルは崩れ、廊下にブチまかれた。押していた男は急いでファイルを拾い上げては台車へと積んでいく。その背中は哀愁に満ちていた。
「大丈夫すか?」
俺は、その哀れな男に声をかけ、ファイルを拾って台車に載せた。
「あ、すみません」
と男は恐縮しながら、なおもファイルを拾う作業を続ける。汚いシャツにGパン、およそ一流企業の社員には見えなかった。
――こいつ、バイトの学生かな。
すると、男の背後から別の太った男が声をかけてきた。
「あとどんくらい?」
その男もラフな服装で、同じように台車を押していた。
「これでラスト」
と、バイト君はファイルを拾い上げながら答えた。
「やっと終わりかー! コピー室、山のようになってんぞ?」
太った男はカラになった台車を押し、去って行った。
――コピー室? 面白そうだな、ちとのぞいてみるか。
「これ、コピー室に運ぶんですか?」
俺は、ファイルを積んでいるバイト君にたずねた。
「あ、はい」
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