成り代わり

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「はい、そうです」 「でも、食事とか、そういうのは……」 瀬戸は、表情をくもらせつつ、やや心配げな顔を見せた。 「食事など、生活に必要なことは、こちらですべてまかないます。奥に部屋がありますので、自由に使っていただいてかまいません。何かあれば、このヒトエに言いつけてください」 俺は、有無を言わさず瀬戸に言った。瀬戸は、数秒考えたが、やがてこちらの目を見てきっぱり言った。 「そうですか……でも、それがルールなら、わかりました! 約束します!」 ヒトエは、その瀬戸の言葉を受けると、書類をペンを差し出した。 「では、こちらにサインを」 「あ、はい! わかりました」 瀬戸は書類を受け取り、テーブルに広げたそしてペンをとり、サインをしようとしたところで、ふと思い出したかのように俺の顔を見た。 「私に成りかわるって、変装をして私に成りすます、んですよねえ……」 「え? ええ……おっしゃる通りですが」 俺は多少、しどろもどろになりながら誤魔化すように告げた。 「そんなにそっくりに変装できるもんなんですか?」 「ええ、まあね。うちはいろんな劇団と提携してますんで、似たような人を探してきますからね」 「そうなんですか、役者さんにお願いするんですね。体型とか同じような人、いらっしゃるんですか?」 「ええ、数多くの劇団を知ってますからね、それこそ何百人という役者の中から、これはという人物をピックアップできます。メイクも特殊メイクばりにしますし」 「声も、似せられるんですか?」 「ええ、そうですね。まあ、役者ってのはみんな芸が達者なのばかりですから……」 「へ~、すごいんですねー!」 瀬戸は、納得した様子で書類にサインを続けた。 ――実は、役者なんかじゃないんだよね。でも、こんなの話したって無駄だからな。 瀬戸を見つつ俺は一人ほくそえむ。 ――そう、俺がこの能力を手に入れたのは……
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