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俺と男と痴漢は電車から降りた。
痴漢は今もなお、否定を続けている。
そろそろ時間がヤバくなってきた俺は、なんだかどうでもよくなってきた。
「…もう大丈夫です。俺…じゃなくて、私、急がなきゃなんで」
困ったような表情を浮かべれば、男は仕方なく痴漢の手を離した。
「良かったですね。今回は優しい方で」
キッと睨んだその男は低い声でそう言った。
痴漢はというと…
男の睨みに恐怖を感じたのか、一目散にその場から走り去っていった。
「ホントに良かったんですか?」
痴漢が走り去っていった方向を見つめていたら、ふと男の声が聞こえた。
「え?」
「痴漢を警察に突き出さないなんて…」
そうは言われても、俺は女装をしているわけなのだから、警察に突き出したとこでバレてしまう。
…それに
「時間!!やばっ、あと10分じゃん!」
時間がないのだ。
「お急ぎですか?気を付けてくださいね」
男は俺の反応に少し驚きながらも、優しく微笑んだ。
「あ、はい!ありがとうございました」
何度か頭を下げて俺は先を急いだ。
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