第二章 暫定殺人

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 立橋はこの、悟った菩薩のような優しく悲しい目を、一生忘れる事ができない。  死を悟ったような、寂しい瞳。黒目には吸い込まれそうになるくらいの無邪気がみなぎっていた。 「ダメだ姉ちゃん……止してくれ……」  その瞳に逆らえなくて。クローゼットの扉が開かない。開けない。  瞬間、空は制限された範囲で動く膝を、強盗の下腹部に突き上げた。 「うぐっ!? うぉぉぉ……」 「あなたなんかに犯されるなら……死んだ方がマシだわ」  さらに追撃として、身を捻って男に頭突く。  しかしいとも簡単にいなされた。そして―― 「じゃあ、死ね」  ――刺さった。背後へと強盗に回り込まれた空の背中に。
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