第二章 暫定殺人

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 それは確実に背から皮を裂き、肩甲骨を掠め、心臓の左心室を突き破った。傷口からは少量の血が垂れて服に滲む。  男はナイフを引き抜こうとするが、筋肉が収縮して抜けないらしい。強盗は引き抜く事を諦めて、また違うナイフを取り出す。  今度はさらに殺傷能力の高い、ボウイナイフだった。 「止めだ。全く……傷が付いた女は犯す気になれねぇ」 「もう止めてくれぇ!」  空の金縛りみたいな制止は、その一連の犯行を目の当たりにして消え去った。  震える両手でクローゼットの扉を開く。その両手で、姉を温めてやるために。
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