プロローグ

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 ――朧月が光を注ぐ下で、時期外れの夜桜が儚げに散った。  奇桜(アヤザクラ)という奇々怪々なあだ名を付けられたこの木は、立橋 天(タテハシ ソラ)が立つこの楔公園にまつわる七不思議の一つだった。  植えて四年。その僅かな年数で、ここまで立派な木へと成長したのだ。  しかし、そんな怪奇が起こる木であれば、我先にと専門家がこぞって調査しに来るものだが、最近はそんな兆候が一切ない。  奇桜。呼ばれるようになった由縁は、奇跡の奇という意味ではなく、奇妙やら奇怪という意味での奇に因んでいるのだ。  まるで呪われているかのような。掘り起こして研究材料として持ち帰ったならば、その者は持ち帰って研究をする前に、資料ごと姿を消してしまう。駆除しようとすれば、その機器はことごとく故障する。  にも関わらず、子どもは枝を折ろうが葉を千切ろうが何も起こらない。この桜に対して悪意を持った行動をした途端に何かが起こるのだ。  全くと言って良い程、処理をする手段が見当たらない。だから七不思議とまで謳われる。
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