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それだけ疎まれても、この公園は立橋にとって大切な場所だった。
親しい者との別れの場所。と言っても、別れの会話を交わしたという意味ではなく、最後に顔を合わせたという意味でだが。
あと一ヶ月程で四年も会っていない事になる。未練がましい男は嫌われるぞ、と自嘲してみても、やはり寂慮が拭いきれない。
しばらく夜の桜を眺めた後、立橋は踵を返して帰路につこうとした。その時だった。
闇夜に浮かぶ白いそれは、群れた蛍のようだった。薄暗い街路灯を吸って輝く大きな蛍が、砂時計のような形をしてゆらゆらと揺れている。
「ドレス? ……まさかな」
こんな時間にこんな場所でコスプレか? などと不信感を覚えながら、走るように動くその者を視線で辿る。
海から流れ着いた小瓶のように、しかし目的地ははっきりした足取りのそれは、公園の東門前で立ち止まった。
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