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「何か・・・珍しい物でもあるの?」
あれほど目立つ異変にシズカは気が付かないようだ。
いや、周りの人間も表情を変えずにビジョンを見上げている。ああいうコマーシャルなのか?
そんなバカな?
「ヨシト・・・続きを・・・」
しかし、今度はシズカが表情を変える。もちろん俺も同時に辺りを見回す。
どうしてか、それは俺も説明しがたい。こんな事があるとは思えないからだ。
見たままを言うと、どこからかサイレン・・・、いや、アラームか? 目立つ甲高い音が鳴り出し、世界が赤く点滅している、と言った感じか。
何かのイベントなのか? ミュージシャンのゲリラライブ?
どこからか照らされた赤い照明の中、シズカは震える声をあげる。
「そんな・・・。どうして・・・このタイミングで・・・。最後の・・・時なのに!」
珍しく取り乱した様子のシズカは、俺の顔を見て口を大きく開けて言った。
「私を! ・・・覚えていて!」
※ ※ ※ ※
「おっはよー。ヨシト、宿題はちゃんとしてきたかね?」
「春休みは宿題ねーだろ?」
「男を磨くとかあるでしょ? 私はちゃんと女を磨いたよ! 見てこれ。かわいくない?」
ハルミは俺の前でくるっと一回転をする。
一年生の時とは髪の長さは変わらないが、色を茶色に染めて毛先にパーマをかけている。
「はいはい。かわいいですねー」
「何よ! 誰のためにやったと思っているのよ!」
ハルミは顔の横で人差し指を振りながら俺に向かって口を尖らしている。
「? ・・・誰のためだよ?」
「・・・・・私のためよ」
今日は二年生になっての初日。要するに始業式がある日だ。
俺とハルミは高校一年生の時に同じクラスで、別に示し合わせたわけじゃないが、いつの間にか同じ時間の電車に乗って改札をくぐる仲。
そして、学校の最寄駅から二人で毎日登校する間柄だ。
俺達はいつものように通学路を歩く。
しかし、表情からでは分からないはずだが、俺の心臓は動きを早めていた。いつもの3倍の速度と言っても良いかもしれない。
ハルミは「イケてるクラスだったらいいなぁ」なんて言いながら歩いているが、俺はそんなハルミと出来ればまた同じクラスになりたいと考えていた。
学年には4クラスあるので確立は4分の1。俺の心臓は校門をくぐる頃には近くにバイクでもあるのか? というくらいの爆音に聞こえた。
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