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「・・・・ダメだよ、先生。体・・・・全然、いうこと、きかな、いや・・・。」
「やはりそうか・・・。蒼空、よく聞くんだ。もう今の体では日常生活は難しいだろう。検査結果の数値も悪いし、心臓の事もあるから再入院したほうがいい。」
「そっかぁ。・・・・ちえっ、今回もすぐに帰れると、思って、たのに・・・。」
声はかすれてはいても、いたって元気そうに見えるように“彼女”に振るまい続けた。
「“ちえっ”じゃないわ、蒼空。体、ちゃんと治さなきゃでしょ?」
いたって明るい蒼空の姿を見てホッとした彩華は、彼の頬に軽くキスをした。
「じゃあ先生、蒼空の事よろしくお願いします。私、彼の着替えとか準備してきますので。」
そう言って彩華は、病室から・・・出て行った。
「私がいる前で堂々とするとは・・・やるね、君の奥さんは。」
「・・・・せん、せ。」
振るまわなくてはならない“彼女”がいなくなった事で、蒼空の言葉に元気はなくなっていた。
「・・・・もし、大切な約束、破られたら・・・どう、思う?」
「それは怒るだろう。・・・・突然どうしたんだ?」
「・・・・別、に。何でも、ない・・・です。」
先ほどとは違う様子に、藤岡は何かに気づいた。
「まったく、おまえは。あまり心配させたくなくて、無理してたな?」
「・・・・すいません。」
「そんな事ばかりしていると、治るものも治らなくなるぞ?ちゃんと奥さんを頼ってあげた方がいい。家族なんだから・・・。」
* *
勇太は最近、学校に来ても授業中はボーっとしている事が多かった。運動会にたいして出れなかった事は、別に問題ではなかった。一番気にしているのは、いまだに目を覚まさない父の・・・・蒼空の事だった。体の事はちゃんとわかっていたはずだったのに、約束を破った父が許せないと・・・思ってしまった。
「・・・勇ちゃんっ。勇ちゃんってば!」
そう声をかけられて、勇太は顔を上げた。
「どうしたの、愛羅?」
「『どうしたの?』じゃないですわ。もう帰る時間ですの。」
ふと時計を見れば、もう夕方の4時。下校時刻だ。それに気づいた勇太は、すぐに席を立った。
「ごめん愛羅っ!悪いけど今日は他の子と帰って!」
そう言って勇太は、教室を出て行った。
* *
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