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「やん。お兄ちゃんに捕まっちゃった!」
「”捕まっちゃった!”じゃないよ。早く朝ごはん食べないと、幼稚園バス来ちゃうよ。だからほら、早く下に行こ――――。」
勇太は彩奈を連れて部屋を出て行こうとして、ふと足を止めた。
「・・・・父さん、大丈夫?」
「なっ、何がだよ・・・・。」
「いや・・・なんか顔色が悪そうに見えたから。」
体の方は落ち着いていたから気づかれる事はないと思っていたが、息子の勇太は見逃さなかった。まだ青い顔をしている事も、首元に残る汗の痕も・・・。
「だっ、大丈夫だ。そんなに心配するな。だから早く学校に行きな。おまえも遅刻するぞ?」
「・・・・はぁい。」
勇太は渋々部屋を出て行き、部屋に一人残された蒼空は溜息をついた。
* * *
朝は妹のせいで遅刻するかと思ったが、いつもと同じ時間に登校してきた勇太は、自分の席に座って鞄の中から教科書やノートを取り出す。
「おはよ~、勇ちゃん!」
そこへ黒く長い髪をしている一人の女の子が、勇太の席にやってきて声をかけてきた。
「おはよう、愛羅(アイラ)。今日も元気だな。」
彼女は水谷 愛羅(ミズタニアイラ)。その名が示す通り、司が彼の父親にあたる。母親は人気女優の美人さんらしい。
勇太はその美人さんとあまり話した事はないが、父である司とは小さい頃から遊んでくれるいい人で、自然と娘である愛羅とも仲良くなり、いわば幼馴染だ。
「もちろん元気よ!朝は時間があったから、“スイートラブ”を読んできたから尚更テンションが上がってますの~!」
愛羅が言っているソレは、ある作家が書いた女の子たちの間で人気の少女マンガだ。校内の女子達も、よくその話で盛り上がっている。その子達とだけで話せばいいのに、読んだこともない男の自分もその話をされても正直困る。だからいつも軽く受け流していた。
「あ~はいはい。・・・・いいよなぁ愛羅は。そんな事する時間があってさ。僕なんて今日、朝から妹に振りまわされて遅刻するかと思ったし。」
「あら、私はその方が羨ましいわ。私一人っ子だから、妹とか弟がいる人の話聞くの好きなの~!そんなに嫌なら代わってあげたいくらいだわ。」
「別に嫌な訳じゃないんだけどね・・・。」
その時予鈴のチャイムが鳴って、愛羅は「じゃね!」と言って自分の席についた。
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