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勇太はカバンから必要な物を取り出し終えた時、底に入った一つの袋に気がつきそれを取り出した。袋には紙が貼ってあって、下手な字で何かが書いてあるそれを読み、中身を見て思わず吹きだした。
「・・・・もう、何だよコレっ。」
“「これでごはんかってたべて あやな 」”
中に入っていたのは確かにお金ではあったけれど、お札の方にはしっかりと“こども銀行”なんて字が入っていた。悪戯とかそういうのではなくて、本気でそうしてきた彩奈の行動に笑みがこぼれた。
* * *
「ねえ、蒼空。」
パソコンに向かって仕事に集中している彼に、彩華は声をかけた。
「ん~?何?」
蒼空は適当な返事をしただけで、こちらを向いてはくれなかった。カタカタとキーボードを叩く音だけが響いて、二人の間に沈黙が流れた。
「・・・・。ねえっ、何も言ってくれないの?」
「ん~?何がだよ?」
仕事に集中している蒼空の姿を見ているのが何だか辛くなって、彩華は後ろから彼を抱きしめた。
「・・・・朝の事、勇太に聞いたよ?何で言ってくれないの?」
「何だよ、そんな事気にしてたのか?」
蒼空はキーボードを叩く手を止めて、自分の胸元にある彩華の手に触れた。
「大丈夫だよ。別に発作が起きた訳じゃないから。」
蒼空はウソをついた。今ここで正直に話したくなかった。ただでさえ心配性な彩華に余計な心配をさせたくなかった。
「ウソ。」
予想もしていなかったその言葉に、蒼空の体がビクリと反応した。
「顔色が悪くて、汗もかいてたって聞いたよ?・・・・大丈夫じゃないよぅ。」
「ホント、大丈夫だよ。ただ夢見が悪かっただけだから。・・・・それにしても、よくそんな所まで見てたよなぁ、勇太は。」
蒼空は話をそらそうと、笑いながら言う。
「一体、誰に似たんだろうな?なあ、彩―――。」
振り返った蒼空の言葉は、柔らかな何かに遮られた。
「――――――。」
そんな行動に少し驚いた様子を見せる蒼空を、彩華はじっと見つめる。
「・・・・余計な心配なんかじゃないからね。」
「・・・・うん。」
――――わかっていた事だった。“ウソ”なんてものは・・・・彩華には通用しないって。
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