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「司、こんな所で待ってないで暇つぶしてきたら?終わったら電話するしさ・・・。」
検査も一通り終えて、待合室で診察室に呼ばれるのを待っていた蒼空は、隣で本を読んでいる司にそう言った。
藤岡はとても評判がいいらしく、彼に診てもらおうとやってくる患者は多かった。主に内科の先生としている訳だが、実は心臓外科の先生としても活躍していた。蒼空の母親の主治医だったのも、彼女が心臓を患っていたからだった。そんな有名な先生に診てもらうとなると、それだけ待ち時間が長くなる可能性は充分あった。
「何回おまえの診察に付き添って来てると思ってんだ?」
「でもっ・・・。」
「『でもっ』じゃねぇよ。最初の頃は長いなぁとか思った事もあったけど、今はもう慣れちまったから大丈夫だ。だから・・・気にすんな。」
司は視線を本から蒼空に向けてそう笑顔で言う。――――が、すぐに彼の異変に気がついて、笑顔が消えた。
「ん・・・・。そだ、ね。――――ツっ。」
蒼空は胸元を軽く押さえて、息を乱していた。ついさっきまでの元気そうな姿はそこになく、青い顔をしていて辛そうだった。
「・・・・ハァッ、ハァ・・・。」
呼吸が辛くなってきて、蒼空はいつものように落ち着かせようと、深呼吸を繰り返す。
「おい、大丈夫か・・・蒼空?」
司は背中を優しくさすってやりながら、声をかけた。
「・・・・ハァッ・・・ハァッ・・・・だっ、大丈夫じゃ・・・・ない、かもっ。」
近くにいた看護師が気づいて、こちらにやってきた。
「辛そうね、大河さん。・・・・先生に呼ばれるの次だから、隣の処置室で安静にしてましょうか。」
蒼空は頷くと、ふらついた足どりでその部屋に入り、簡易ベットに座った。
「・・・・ハァッ・・・ハァッ。」
苦しくて横になる事も出来ず、蒼空は胸に手を当てて必死に呼吸を繰り返す。
家族でもない司は診察室には入れない為、今ここには彼一人だ。カーテンの向こう側で藤岡が別の患者と話しているのを聞きながら、蒼空は自分の所に早く来てほしいと心の中で叫んでいた。願いが通じたのか、仕切られていたカーテンが開かれて藤岡が入ってきた。
「・・・・ハァッ・・・ハァッ。・・・・・せん、せ。」
「定期検査の日はもう少し先なのに来たから、どうしたのかと思えば・・・・やはりな。」
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