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「蒼空、家についたぜ。立てるか?」
「・・・・うん、大丈夫。」
大輝と再会した後、目的のケーキを何個か買ってすぐに帰る事にしたわけだが。今考えれば、司の言う通りすぐに家に帰って休むべきだったのかもしれない。先ほどからまた、頭がボーっとしてきていた。
車から出ると、グラリと視界が歪んで蒼空は倒れそうになった。
「・・・・っと、大丈夫か?また熱が上がってきたんじゃねぇのか?」
倒れそうになった蒼空を、司が反射的につかんで助けた。
「ごめん・・・・司、ありがと。」
「そんな顔色じゃ、何を持って帰ろうがアヤちゃんに聞かれるな。」
「だろうね。でも、言っちゃダメだからな?」
そう言って玄関を開けて中に入ると、そこに彩華が立っていた。
「お帰りなさい。車の音が聞こえたからもしかしてって思っ――――蒼空、顔色が悪いけど・・・・大丈夫?」
蒼空の顔を見ただけで彩華はそれに気づき、彼の額に手を当てる。
「・・・・やっぱり、熱あるね。司とどこに行ってきたの?何か無理した?」
「別に、何も・・・・。ちょっと商店街をまわってきただけだよ。あっ、そういえば懐かしい奴に会ったんだ。」
話を逸らすかのように、蒼空は大輝との事を話した。
「ふぅん。誰と会ったの?」
彩華は蒼空をじっと見つめたまま、興味なさげに言った。
「アイツだよ、魅令 大輝。今は『杉波』って苗字らしいけど。」
「ふぅん。じゃあ誰かと結婚したんだね。」
「それで大輝の奴の奥さんが医者でさ、転勤でこっちに引っ越し――――。」
「ねぇ、蒼空。それはもうわかったから・・・・。司とどこに行ってきたの?」
蒼空の言葉をさえぎり、彩華は話を元に戻した。
「だから商店街に行ってきただけだって。で、ついでにケーキ買ってきた。そんだけ。じゃあ僕着替えてくるから。・・・・司もちょっと来て。」
そう言ってケーキ屋の箱を渡して、司と二階へ上がっていく蒼空を見て、彩華はある事に気づいてしまった。
すれ違った時に感じた、彼の体にかすかに残る・・・・病院のあの匂いに。
「何で・・・・?どうして何も言ってくれないの?」
一人そこに残された彩華は、ボソリと呟いた。
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