146人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
「じゃあ、ちょっと出かけてくるね。」
バックを手に玄関を出ようとする蒼空の手を、彩華がつかんだ。
「ん?どうしたんだよ、彩華?」
「ねぇ、どこに行くの?」
「さっきも言っただろ?父さんの所に行ってくるだけだって。終わった仕事のデータ、渡しに行かなきゃ。」
心配そうな顔でじっと見つめてくる彩華を、蒼空は抱きしめた。
「そんなに心配するなって、大丈夫だから。」
「だって・・・・このあいだ司と出かけて来て帰って来た時、あんな高熱出したし。」
ついこの前、彩華に黙って病院に行った日の夜。蒼空は40度近い高熱を出してしまったのだ。ここ最近はそんな高熱を出すこともなかった為、彩華は心配だった。
「あれは風邪だったんだから、仕方ないだろ?今日は大丈夫だから、な?」
「うん・・・・。じゃあ用事が終わったら、寄り道しないで帰ってきてね?」
「おいおい。僕は子供扱いか?・・・・じゃあ、行ってくる。」
蒼空は笑顔を見せ、彩華に軽いキスをした。
父親である京哉はコンピューター関係の仕事をしていて、研究所にいつも泊まり込みでほとんど家には帰ってこなかった。そんな父の研究を蒼空は手伝っていて、一応研究所の職員だった。頼まれた仕事を家のパソコンで終わらせて、データを持ってくる・・・・それがいつもの仕事だった。
「父さん、これが仕事のデータね。」
「助かるよ、蒼空。今回のは少し大変だっただろう?」
渡されたディスクを受け取り、京哉はそう言った。
「仕事はそうでもなかったんだけど、体の調子が悪くてなかなか来れなかっただけだよ。」
「本当に凄いよなぁ、リーダーの息子さんは。――――よぉ、蒼空君。随分久しいじゃねぇか。」
そこへ同じ研究チームの一人である中年のおじさんが声をかけてきた。何人かいるチームメンバーの中で一番のムードメーカーで、よく面白い話をしてくれる人だ。
「あんまり来ねぇでいると、幽霊社員になっちまうぞ?」
冗談半分でそういうこの人は、蒼空も好きだった。
「そうですねっ。そうならないように努力しますよ。」
蒼空は笑ってそう返すと、まだパソコンに向かって仕事をしている京哉に声をかける。
「・・・・父さん、そろそろ藤岡先生と約束した時間なんだけど、大丈夫そう?」
「あぁ。仕事も一段落した所だから大丈夫だ。・・・・行こう。」
京哉はパソコンの電源を落とすと、椅子にかけていた上着を手に取った。
最初のコメントを投稿しよう!