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それを聞いた勇太は、すっと片手を差し出した。
「僕も、ごめん。・・・・じゃあ改めて、よろしくって事で。」
「・・・あぁ。」
差し出された手を、光輝は握り返した。
* * *
病院についた蒼空は、すぐに診察室に呼ばれた。京哉と共に中に入り、用意された椅子に座った。
「お忙しい所、来て頂いてすいません、京哉さん。」
「大事な一人息子の事ですから、忙しいとか言ってられませんよ。」
そう言う京哉に頷くと、藤岡はすぐに診察をはじめた。
「ところで蒼空君。私は奥さんも連れて来てくれと言ったはずだが?」
蒼空の胸元に聴診器をあてて診察を続けながら、藤岡が言った。
「・・・・すいません。まだはっきりしてない事を、彩華に知られたくなかったんです。」
「体の調子が悪くなるといつもソレだな、君は。」
そう、こんな事をするのは今回がはじめてじゃなかった。前も、その前も、体の調子が悪くなると司か父の京哉に付き添ってもらって、彩華には内緒で病院に
来る事は何度もあった。
「・・・・すいません。」
「・・・ふむ。今日は調子が良さそうだな。」
特に顔色が悪いわけでもない蒼空の姿は、京哉に今日呼ばれた事を不思議に思わせてしまう。
「藤岡先生。息子は一体どうしたって言うんですか?今日も調子が良さそうに見えますけど・・・。」
そう聞かれた京哉は、深い溜息をついた。
「申し上げにくい事なのですが・・・・蒼空君の体は、あまりいい状態とは言えないと思います。」
「それは、一体どういう意味ですか?」
先を促そうとする京哉とは反対に、蒼空は顔をうつむかせていて、手が震えていた。覚悟はしていても、やはり怖かった。
「ついこの前、蒼空君が胸の痛みを訴えてきましてね。それで色々と詳しい検査をさせてもらいました。それで昨日、その結果が出たので来てもらった・・・・という訳です。」
「それはいつもの喘息から来るものではないんですか?」
そう言ってくる京哉に、藤岡はカルテを片手に首を横に振る。
「私も最初はその可能性を考えましたが、この検査結果ではそうとは言えないんです。」
「・・・・藤岡先生。」
それを静かに聞いていた蒼空は、自分の体が今どういう状態なのかに何となく気づいてしまった。
「ん?なんだい、蒼空君?」
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