5話 オモテの気持ち、ウラの気持ち

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 ついこの前、父の京哉と病院に行った時に藤岡に言われた事を蒼空はまだ、彩華に言えずにいた。今回は“言わなくても大丈夫”という状況ではなく、下手をすれば命にかかわる事だった。でもいざ言うとなると、どのタイミングで言っていいのかわからないでいた。 けれど・・・それがかえって彩華を、余計に心配させているとは知らずに。  ふと目が覚めてしまった蒼空は時計を見た。時間は朝の5時で、窓の外から朝日が差し込んできていた。いつもはこんなに早く目覚める事はない。しかしなぜ今日、こんな時間に目が覚めてしまった原因なんて、分かりきっていた・・・。 「・・・・ハァッ、ハァッ・・・。」  息が苦しくて横になっていられなくなり、ベットの上で上体を起こして呼吸をくり返す。 「ツっ・・・・うっ・・・!」  いつものように動悸が起きてきて、蒼空はギュッと胸元をおさえた。   カタンッ・・・。  その時、何かが落ちる物音がして、蒼空は苦痛に顔を歪めながらそちらに顔を向ける。 「・・・・っ、蒼空っ!?どうしたの!?」  そこに彩華が立っていて、床には今まで持っていたであろうコップが落ちていて、中身の液体がこぼれて小さな水たまりを作っていた。 「・・・・ハァッ、ハァッ。だっ、大丈夫だよ、ただの・・・動悸だしっ。最近ちょっと、回数が増えて、るだっ――――ツっ!?」  激痛が襲ってきて、言葉がそこで途切れた。ほんの一瞬だけの痛みは、何だか日に日に強さを増しているような気がした。 「病院、行った方がいいよ・・・蒼空。」 「・・・・ハァッ、ハァッ。もう、この間っ、父さんと行ってきた。」  やっと落ち着いてきた蒼空は、呼吸を整えながら少しずつ話す。 「・・・・・。」 「・・・・彩華?」  返答がない事を不思議に思い、顔をうつむかせている彩華の顔に触れようと、手を伸ばした。 「――――バカっ。」  触れようとした蒼空の手がピタリと止まり、その手を彩華がギュッと握ってきた。 「やっぱりこの前、病院行ってきたんじゃないっ!ねえっ!どうしてあの時言ってくれなかったの!?私じゃ・・・・頼りないの?」 「違うよっ、そんなこと思ってないよっ。」 「じゃあどうしてっ?私気づいてたけど・・・・蒼空から言ってくれるの待ってたのにっ。」  泣きそうになっている彩華を見て、蒼空は彼女を優しく抱きしめた。
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