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勇太は別に、病弱な体をしている父親が嫌いな訳ではなかった。ただこうやって「何で?」と聞かれるのがイヤだった。父と一緒に思い切り走ってみたい。本当なら・・・・出来る事ならそうしたい。けれど、そんな事は出来るはずもなくて――――。
勇太は心が痛かった。
* * *
朝は動悸のせいで目を覚ましてしまったが、今日は体の調子が良かった。蒼空は父から頼まれている仕事を終わそうと、パソコンのキーボードを叩く。
「パパぁ・・・・本読んでぇ。」
「ダメ。今は仕事中だから、もう少し待ってな彩奈。」
いつもならまだ幼稚園にいる時間だが、今日は午前中だけだった為、家に帰ってきていた。
母は買い物で、兄は学校。今いる父は仕事中でかまってくれず、彩奈は退屈で仕方ない。
「ねぇ、ママはまだ帰ってこないの~?お兄ちゃんは~?」
「お母さんはさっき買い物に行ったし、お兄ちゃんは学校だろ?」
「ぶぅ~。つまんなぁ~い。」
彩奈はそれだけ言うと、床にらくがき帳を広げてお絵かきをはじめた。その姿を見た蒼空は小さく笑い、仕事に集中した。
―――――。
しばらくの時間がたち、仕事が一段落した蒼空は、ふとさっきまでそばにあった仕事の資料が消えていることに気づく。
「あれ・・・・?」
キョロキョロとあたりを探すが、それらしき物は見当たらない。
「パパぁ、仕事終わった?じゃあ彩奈と鬼ごっこして~!」
そう言ってくる彩奈の手には、探していた資料があった。
「彩奈。遊んであげるから、まずそれを返しなさい。」
「やだもぉん!パパがおに~!キャ~!」
彩奈は資料を持ったまま、蒼空から逃げていく。
蒼空は仕方なく立ち上がると、部屋の中を走り回る彩奈を追いかけた。もう少しで捕まえられる所で何度も逃げられ、その繰り返しだった。それに、彩奈の逃げ足も速くて捕まえる事が出来なかった。いや――――。もしかしたら、それだけが理由ではないかもしれない・・・。
「ほぉら、やっとっ、捕まえたっ!彩奈、それを返しなさいっ。」
一つの部屋の中だけの事なのに、蒼空は少し・・・息を乱していた。
彩奈は持っていた物を蒼空に返すと、らくがき帳を手に取り、振り返った。
「ね~、パパ。じゃあ一緒におえかきし――――。」
たった今返したばかりの物・・・何枚かの紙が、床に散らばった。
「・・・・・ハァッ、ハァッ。・・・・ケホッ、ケホッ、ゴホッ。」
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