5話 オモテの気持ち、ウラの気持ち

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 蒼空は苦しそうに顔を歪め、咳き込んでいた。 「パパっ!?」 「・・・・・ハァッ、ハァッ。・・・・ゲホッ、ゲホッ、ゴホンッ。」  蒼空は咳き込みながら、ポケットからケータイを取り出して、いつものように司に電話をかけようとして・・・ふと今朝の事を思いだす。 ――――『私じゃ・・・・頼りないの?』  何度目かの電話の呼び出し音の後、相手が出た。 “『もしもし?どうしたの、蒼空?』” 「・・・・ハァッ、ハァッ。あや、か・・・ッ。」 “『!?発作起こしたのね、蒼空。もうすぐ家につくところだから待ってて。・・・・彩奈、そこにいる?』”  彩奈は蒼空からケータイを受け取った。 “『私が帰るまで、パパの背中をゆっくりさすってあげて。』”  それだけ言われて、電話は一方的に切られた。 「・・・・・ハァッ、ハァッ。・・・・ゼィゼィ・・・・ヒューヒュー。」  蒼空自身、こんな一部屋の中で少し走り回ったくらいで発作が起きるなんて、思っていなかった。どんどん呼吸が辛くなってきて、吸入器が欲しかった。しかしそれは今、手の届く所にはなく、自分で取りに行く余裕もなかった。 「パパ、大丈夫!?」  そう言いながら背中をさする事にいっぱいいっぱいの彩奈には、蒼空が今何を求めているのかなんて、分かるはずもなかった。  今の彼に出来るのは、彩華が帰って来るまで耐えるしかなかった・・・・。 ――――もうイヤだよ・・・・こんなの・・・。
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