6話 僕に出来る事

6/7

146人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
 藤岡がいつもの吸入器の薬を出して、彼の口内へ噴射してやった。 「・・・・ハアッ!ハアッ!・・・・ゲホッゲホッ、ゴホッ・・・。」  しかし効果はほとんどなく、蒼空は酷く咳き込んだ。 「ダメだな。吸入器じゃ効果が見られない。」 ――――その時、処置室の扉が開かれ、誰かが入ってきた。 「あら藤岡先生。お昼を食べに行かれたんじゃ――――って、蒼空君!?」  入って来たのは一人の看護師でだった。彼女は長年ここに勤めていて、小さい頃から蒼空はお世話になっていた。 「ちょうどよかった。点滴で薬剤投与するから、アレを持ってきてくれないか?」  看護師は頷くと、すぐに藤岡の言う物を準備してくれた。“アレ”だけで通じるのは、恐らく彼女しかいないだろう。  すぐに処置がされて、蒼空の腕には点滴がつながれた。 「もう大丈夫だからな、蒼空。じきに発作も治まるからな。」  とは言えすぐに効果が出るものではないので、蒼空はまだ苦しそうにしていた。 「・・・・ツっ。ハアッ!ハアッ!・・・・ゲホッゲホッ、ゴホッ・・・。ゼィ、ヒュー。」  彩華は心配そうな顔で、優しく彼の背中をさすった・・・。 「・・・・う・・・。」  目をゆっくりと開けると、そこには見慣れたいつものアイツがいた。でも、何だかいつもと違う風に見えた気がした。 (また会えたね・・・白い天井さん。) 「目、覚めた?蒼空?」  声のした方を見ると、そこには彩華がいた。 「・・・・彩華・・・。」  そうしてあたりも見回すと、ここが病室ではない事に気がついた。腕には点滴がつながれてはいたが、自分が今横になっているのは処置室のベットで、まわりはカーテンで仕切られていた。 「蒼空、大丈夫?」 「・・・・あぁ、そっか。僕、家に帰る中で発作起こしたんだっけ・・・。」  何があったのかは覚えているが、うっすらとしかわからなかった。道を歩いていたら苦しくなったとか、病院に戻ってきた事くらいしか覚えていない。 「目が覚めたようだな、蒼空。体の方はどうだ?」  仕切りにされていたカーテンが開かれ、藤岡が入ってきた。 「・・・・大丈夫です。だいぶ楽になりました。」  そう言って蒼空は起き上がり、藤岡を見る。 「先生。点滴が終わったら、家に帰ってもいいですか?」 「・・・まぁ、さっきの発作はどうやら誘発性のもののようだし大丈夫だと思うが。このまま一度入院した方が、安心できるのだがな。」
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加