6話 僕に出来る事

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 蒼空はふるふると首を振った。 「ダメだよ、先生。そうしたいけど・・・今はダメだ。息子の、勇太の運動会が終わるまでは。」  他の人と同じ事が出来ないこの体は、自分のまわりの人達にもそうさせてしまう。 『一緒に出て欲しいって言いたい訳じゃないんだ。運動会を見に来てくれれば、それでいいんだ。』  そう言っていた勇太の本心は、蒼空にはわかっていた。出来るなら一緒に出てやりたかった。でも、去年もその前も・・・そうしたイベントに行く事自体が精一杯だった。しかもその次の日は、大抵体調を崩して寝込んでしまう事が多かった。 「僕がしてあげられる事があるなら・・・ちゃんと、してあげたいんだ。」 「・・・わかった。だが、次にまたこのような事があるようなら、理由はどうあれ入院だからな?」 「はい。・・・・わかってます。」  点滴も終えてやっと家に帰って来ると、留守番をしていた勇太と彩奈が、玄関で出迎えてくれた。 「おかえりなさい!パパ、ママ!」  やっと帰ってきてくれたのが嬉しい彩奈は、笑顔でそう言ってきた。一方、勇太の方はというと・・・すぐに父親の変化に気づいていた。 「お帰りなさい、遅かったね。・・・あれ?父さん、大丈夫?顔色、悪いんじゃない?」 「遅くなってごめんね。本当はもっと早く帰れたんだけど、パパがちょっと――――。」  そう言いかけた彩華に、蒼空はふるふると首を横に振った。 それが何を意味するのか理解した彩華は、そこで言うのをやめた。 「大丈夫だよ、勇太。ちょっと検査が長引いて疲れただけだから。」  今、自分の体の状態があまり良くない事を、蒼空は言いたくなかった。言ってしまったら勇太は気を使って、『やっぱり見に来なくてもいいよ。』って言って、我慢させてしまうと・・・・蒼空にはわかっていた。 そして――――。 この時の彼らは、知るよしもなかっただろう・・・。 何もかもが変わってしまう出来事が、起きてしまう事に・・・。
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