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「あれ・・・蒼空?どこか出かけるの?」
玄関で靴を履いている彼を見つけた彩華は、そう声をかけた。
蒼空の体がビクリと反応して、そろそろとこちらを振り返る。
「あぁ、ちょっと司に買い物付き合ってくれって・・・頼まれてさ。」
「・・・・本当かなぁ?」
彩華は疑り深そうに蒼空をじっと見つめた。前の時もこうやって誤魔化して、病院に行った事があったためか、そう簡単に信じられなかった。
「本当だってば!買い物が終わったらすぐ帰るから。行ってきまーす!」
そう言ってそそくさと出て行く蒼空を見送った彩華だったが、いつも以上に元気に振るまっている彼の姿が・・・・不思議に思えた。
「何だよ、家出て来る時そんな事があったのか。誤魔化すのも大変だな、蒼空。」
商店街を歩きながら朝の出来事を司に話すと、彼はケラケラと笑った。
「まぁ・・・とにかく、目的の物が買えたからよかった。」
蒼空は手に小さな紙袋を持っていて、『happy birthday』のシールが貼られていた。
「明日はアヤちゃんの誕生日だもんなぁ。ひゅーひゅー!アツイね!」
「何バカな事言ってんだよ、もぅ。そういう司だって、愛しの奥さんとの結婚記念日のプレゼント持ってるじゃないかっ。」
「おいっ、〝愛しの〟とか言うなよ。恥ずかしいだろ?―――――っおお!!」
ケラケラと笑っていた司はふと、ある店の前で足を止めた。
「今日はDVDの発売日だったのすっかり忘れてたぜ。蒼空、ちょっと行って来てもいいか?」
それは司が学生時代の時からハマっている、あの刑事ドラマだった。入口の前に発売の告知ポスターが貼られていて、なんと今この店で買うとポスターもついてくるらしい。
「司、本当にこのドラマ好きだなー。僕には良さが分からないよ。まぁ・・・とりあえず行ってきなよ。僕はこの辺で待ってるからさ。」
「悪いな、蒼空。」
司はそう言って、店の中に入って行った。
蒼空は店の近くにあった小さな噴水広場のベンチに座り込んだ。
「・・・・ふぅ。」
司の姿が見えなくなった事で気が抜けたのか、一気に体がダルさに支配された。本当は朝からあまり体の調子が良くなかった。でも今日は、無理をしてでも買いに来たかった。
―――愛する人が生まれた・・・大切な日だから。
―――自分に出来る・・・数少ない事だから。
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