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* *
運動会の総練習とかがはじまって、いよいよその日が間近に迫っていた。まわりのみんなは楽しみで仕方ない様子だったが、勇太はあんまりやる気になれなかった。
「勇ちゃん、あんまり元気ないみたいだけど・・・大丈夫ですの?」
「僕は大丈夫だよ、愛羅。」
「そういえば最近、勇ちゃんの家に遊びに行ってもお父様見かけないけど・・・大丈夫ですの?」
最近の父・・・蒼空は、以前よりも部屋のベットで横になっている事が多くなっていたそんな状態の彼に、『運動会に来てほしい』なんて言うべきではなかったと、少し後悔していた。
「体の調子は悪いけど、それ以外は変わってないよ。」
「やれやれ。そういう親をもった君は大変だね。」
そう言う光輝に、勇太はふるふると首を振った。
「違うよ、光輝。大変とかそういうのは関係ないよ。そういう父でも、僕は大好きだから・・・大事に思わなきゃ。」
自分は他のみんなとは違うけど、違うからこそ手に入れたモノがあった。
家族との絆はきっと・・・みんなよりも強く、固いから。
* *
やっと家に帰って来た蒼空は、すぐに部屋のベットに横になった。・・・というより、〝そうするように言われた〟という方が正しいかもしれない。体調が悪いのを帰って来るなりすぐに気づかれて、今、このベットにいる・・・という訳だ。
ピピピ・・・。
体温計の音が鳴って、蒼空はソレに表示される数字を見て・・・絶句。
「・・・・あ、はは。こんなに熱、あったんだな。」
「・・・38.1度。何でこんなにあるのに、動けたの?」
蒼空から体温計を受け取った彩華もまた、絶句していた。
「それは―――大事な目的のためというか、なんというか・・・。」
なんとか誤魔化そうとしてそう言うが、彩華にはそんな手は通用しなかった。
「ごまかさないでよ!ちゃんと話して、蒼空。」
じっと見つめてくる彩華の目は潤んでいて、今にも泣いてしまいそうだった。
その姿は・・・蒼空の心をドキドキさせた。
「「―――――。」」
次の瞬間、二人の唇は・・・優しく重なった。
「ちょっ・・・どうしたの、蒼空?」
突然の出来事に、彩華は顔を真っ赤にした。
「ゴメンな。今日はどうしても出かけたかったんだ。・・・・これを買うために。」
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