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「今日は早退しなさい。・・・・おまえの父さん、蒼空が救急車で病院に運ばれた。」
突然聞かされた事実に、勇太の心は一気に氷付いた――――。
* *
救急搬入口にストレッチャーで運ばれてきた蒼空を、藤岡は待っていた。
「状況は!?」
「心拍数が上昇していて、呼吸困難を起こしています。」
救急隊員の一人が手動の呼吸器を動かし、酸素を彼に送りながら言う。
「意識レベルは!?」
「呼びかけには反応しますが、ほとんど話せない状態です。」
「蒼空っ、私の声が聞こえるかっ!わかるなら手でもいいから返事をしろっ!」
蒼空はうっすらと目を開けると、かすれた声で途切れ途切れに言葉を口にした。
「・・・・・・・・ハアッ、ハアッ、ハアッ。せん、せ・・・僕っ、今度こそ・・・・ダメ、かな?」
「バカを言うなっ!そんな事あるものか!諦めるな、蒼空!」
しかし症状は悪化する一方だった。またあの時と同じ状態になりつつあった。蒼空の唇がみるみるうちに紫色に変色していく。
「マズイな・・・チアノーゼが出てきたか。」
「・・・・ハアッ!ハアッ!ハアッ!」
もう話す余裕がなくなり、蒼空は呼吸だけを必死にくり返す。
「急いで処置室に頼むっ!」
――――ゴメンな、勇太・・・。
目が覚めた蒼空が一番先に見たのは、やはりあの白い天井だった。
(・・・・白い天井さんだ。って事は、僕はまだ・・・生きてる?)
「蒼空っ!よかった・・・目が覚めたんだねっ!」
ベットで横になっている蒼空に、彩華は抱きついた。
「・・・・あ、や・・・かっ。」
声はかすれていて、小さな声にしかならなかった。
「何でここにいるのか・・・ちゃんとわかるか、蒼空。」
ちょうど診察に来ていた藤岡は、聴診器で蒼空の胸の音を聞きながらそう言った。
「・・・・せん、せ。僕っ・・・何日、くらい・・・寝てた?」
「一週間だな。」
「・・・・そっか。じゃあ、結局僕はっ・・・行って、やれなかった、のか。」
あんなに楽しみにしていた勇太に、蒼空は結局・・・・約束を守れなかった。出来る限りの事はしてやろう思う気持ちはあっても、彼の体はそれにこたえてくれない。
「蒼空、体の方はどうだ?起きれそうか?」
藤岡にそう声をかけられ我に返った蒼空は、出来る限り明るく振るまった。
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