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勇太が通う学校の運動会のあの日から、蒼空の生活は一変してしまった。いつものようにすぐ家に帰れるかと思いきや、それはすぐに却下されてしまった。検査結果の数値は今まで以上に悪いし、体はいつもダルくて、起きていられない方が多かった。
そんな毎日が続いていたが、今日は少し体の調子が良かった。こういう時こそ誰かに会いたかった。調子が悪い時に会っても、心配ばかりさせてしまうだけなのは・・・・蒼空は嫌だった。
コンッコンッ・・・。
病室の扉がノックされた。
「・・・・藤岡先生。」
入って来る人物に期待を寄せたが、入ってきた藤岡は・・・彼が求めた人物ではなく、ため息がもれた。
「なんだその溜息は?『なんだ先生か。』って顔だな。」
「そっ、そんな事思ってませんよ。」
「本当かぁ?」
藤岡はそう言いながら、聴診器で彼の体を診察する。
「・・・ふむ。安定しているようだな。」
藤岡のその言葉を聞いて、蒼空は安堵の息をついた。体がずっとこのままだったらどうしようという不安感に・・・蒼空の心は一杯になっていたから。
「先生・・・。僕、早く元の生活に戻りたいよ。」
「状態が安定すれば出来るさ。だから今は、ゆっくり休みなさい。」
不思議と睡魔が襲ってきて、蒼空は目を閉じた。
それを見届けた藤岡は、そっと彼の病室を出て行った・・・。
――――が。
その睡魔は邪魔されて、目が覚めてしまう。
「・・・・ツっ・・・。ハアッ、ハアッ・・・。」
蒼空は横になっていられなくなり、ゆっくりと上体を起こして呼吸を整えようとする。
「・・・・ハアッ、ハアッ。――――ツ・・・うっ!」
激痛が襲ってきて、蒼空は胸をギュッとつかんだ。痛みに耐えながら、もう片方の手でナースコールを押した。
「蒼空、どうした?」
病室の扉が開かれ、まだ近くにいた藤岡がすぐに入ってきた。
「・・・・せん、せ。・・・ハアッ、ハアッ。・・・・む、ねっ、いっ――――。」
まともに話す事ができない蒼空は、何とか言葉を絞り出した。
「大丈夫だ。落ち着いて、深呼吸しなさい。」
「・・・・ハアッ、ハアッ。・・・ゲホッゲホッ、ゴホッ。」
痛みは落ち着いてきたが、今度は喘息の発作が起きてきて、酷く咳き込んだ。
こんな姿は、出来るなら誰にも見られたくなかった。でも・・・こういう時に限って、必ず誰かが面会に来てしまう。
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