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ふと扉の方を見ると、そこに司の姿が見えた。心配そうな顔で、こちらの様子をうかがっている。
「・・・・司っ。・・・ぅ、ゲホッゲホッ。」
話そうとするが、すぐに咳が出てきてしまう。
「俺の事はいいから、まず落ち着いてからにしろよ。」
「ふむ・・・。やはり、詳しい検査をした方がいいな。」
藤岡は聴診器で蒼空の胸の音を聞きながら、そう言った。ついさっき聞いた時と何かが違う事に・・・彼は気づいていた。
「・・・・は、いっ。・・・ケホッケホッ・・・。」
やっと呼吸が落ち着いてきた蒼空は、弱々しく返事をした。
「――――と、いう事で司君。悪いが、今日は・・・。」
「藤岡先生。俺、このままいちゃダメですかね?会いに来たの久しぶりだし、話したいんですけど。」
言いかけた藤岡の言葉をさえぎり、司は言った。
「ん?確かにこのまま帰れというのも可哀想だな。それに司君だし・・・いいか。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ準備出来たら、二階の検査室に来るように。」
藤岡はそう言って、病室を出て行った。
「なぁ、司。この間の運動会の写真、出来たか?」
病院の廊下を進みながら、蒼空は司にそう聞いた。・・・・とは言っても、蒼空は車椅子に乗っていて司に押されている状態だ。今の蒼空の体には病院内を歩きまわれるほどの体力はなかった。前回の検査の時は自分で歩いて行こうとしたが、途中で歩けなくなってしまい、近くを通りかかった看護師さんに助けられた。
「あぁ、ほら見てみろよ。勇太の奴、100m走で一位取った時の写真・・・・スゲェだろ?」
司から渡された写真を受け取った蒼空は、それを見て思わず笑みがこぼれた。
満面の笑顔でゴールの白いテープをきる勇太の姿は、とてもキラキラ輝いていた。
「・・・・おまえ、親バカだな。」
「何だよソレ。おまえだって親バカだろ?」
「はっ、確かに。」
司はケラケラと笑いながら、蒼空の乗る車椅子を押した。
しばらく何枚かの写真を見ていた蒼空は、ふと動いていない事に気がつき、顔を上げた。
「司?どうしたん――――。」
顔を上げた先には、大輝の姿があった。隣には白衣を着た女医さん・・・いや、大輝の奥さんがそこにいた。
「・・・・大輝。」
「やぁ、蒼空じゃないか。元気・・・って訳じゃなさそうだね。」
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