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大輝は蒼空の今の姿を見て、すぐに何を意味するのかに気づいた。入院患者が着るソレを着て・・・車椅子に乗る彼の姿を見て。
「まぁ、ね。こんな事になっちゃったから、結局息子の運動会も行けなくてさ。」
蒼空は彼の前で、あえて明るく振るまった。こんな奴にまで心配して欲しくなかったから・・・。
「こんにちは。あの時以来ですわね、お会いするのは。私、ついこの間からここの精神心療科で働いてるの。」
「あの時はどうも。・・・・あなただったんですね、最近噂になっていた新しい心療科の先生って。」
「おい、蒼空。おまえいつこの人と会ったんだよ。・・・・あ!もしかして、浮気か?」
話についていけない司は、そう言って話に入ってくる。
「ばかっ、そんな訳ないだろ!ほら、この前彩華のプレゼント買いに行った時だよ。おまえ、ちょっと行ってくるっていなくなっただろ?あの後、すこし発作起こしちゃって・・・。」
「その窮地に僕の大切なマイハニーと僕に会った・・・・という訳さ。」
「申し遅れました。私は『杉波 真矢(スギナミ マヤ)』、よろしくお願いしますわ。」
そう言ってほほ笑む彼女の姿は、本当に、自分が愛するあの子に・・・・よく似ていた。
昨日は何かと家の事が忙しくて、毎日欠かさずに蒼空の所に行っていたのに、それが出来なかった。でも今日はやる事も早く終わったので、彩華は彼に会いに来ていた。たった一日会っていないだけなのに、胸が高鳴るのを感じる。
彩華は病室の前で深呼吸をして、扉をノックしようとした。
が――――。
中から誰かと話しているのが聞こえて、彩華の手は止まってしまう。聞き覚えのない女の人の声と彼の声。内容までは聞き取れないが、何だか楽しそうに話している。彩華の心の中に、何だかモヤモヤしたものが広がった。
(蒼空ってば・・・・誰と話してるのよっ。)
しばらくして誰かが出て来る気配を感じた彩華は、思わず物陰に隠れた。中から髪の長い女性が出てきて、「また来るわ。お大事に・・・。」と言って帰って行く。
彩華はその女性の背中を軽く睨みつけて、そぉ~っと病室の中に入った。
「・・・・はぁ・・。」
蒼空は頭の方だけが少し起こしてあるベットに、横になっていた。
「何よ、その溜息。さっきの女の人、誰?」
「・・・・彩華っ、いつからそこに?」
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