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少し驚いた様子を見せるが、蒼空の声に元気はなかった。
「今だよ、今。誰かと話してるみたいだったから、待ってたの!」
「・・・・何だよ。もう少し、早く来てくれればよかったのに。」
「何よぅ、それってどういう意味?顔まで赤くしちゃってさっ。」
彩華の心の中にあるモヤモヤとしたものが広がっていたせいで、いつもはすぐ気づくものに、全く気づいていなかった。
「・・・・どうしたんだ、彩華?もしかしてっ・・・嫉妬?」
「ちっ、違うもんっ!知らない女の人だから、誰かなぁって。」
「だから嫉妬だろ?可愛いなぁ、彩華は。あぁ、すっごく今、君を抱きしめて・・・やりたくなったっ。でもっ、今はもう・・・・ダメ、だ。」
* * *
頭がボーッとしてきて、言葉がなかなか出て来なくなっていた。
「ちょっと、蒼空?大丈夫?」
心配そうな顔をした彩華は、そっと僕の額に触れた。少し冷たいその手が、心地よかった。
「・・・・今朝から、ちょっと・・・熱っぽくて、さ。」
いつもなら出来る限り心配させないようにしようとするけど、今の僕はそうじゃなかった。いや・・・・そうする気力さえ、なかった。
彩華はカバンから、いつも持ち歩いている体温計を取り出してきて、慣れた手つきで僕の体温を測る。
「・・・・何度、ある?」
「――――39.0度。看護師さん、呼んだ方がいいね。」
「・・・・それなら、大丈夫。たぶん・・・・ハアッ、ハアッ・・・もう、くるっ。」
呼吸が乱れてきて、話す事自体も辛くなってくる。
病室の扉が開かれて、藤岡と看護師が入ってきた。
「・・・・ハアッ、ハアッ・・・。せん、せっ。」
「杉波先生に言われて来てみれば・・・。大丈夫か、蒼空?」
「・・・・ツっ・・・。ハアッ、ハアッ、ハアッ。」
息苦しいどころか今度は胸に痛みを感じて、僕はギュッと胸をつかんだ。もう何かを答える余裕は・・・・なくなっていた。
* * *
「やはり、病状が悪化しているな。悪いが、点滴の準備を頼む。」
そう言われた看護師は、慌てて病室を出て行った。
「先生。悪化って・・・もしかしてっ。」
「彩華さん、君が今思っている通りだ。以前よりも・・・・心臓の病気の方が悪化しているんだ。」
藤岡は看護師が持ってきた点滴を蒼空につけながら、そう言ってきた。
「そんな・・・。先生っ、蒼空はどうなるんですか!?」
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