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「今のところは命にかかわるような問題はないが、これ以上病状が悪化するようなら・・・・手術をする事になるだろう。だが―――。」
処置を終えた藤岡は一度そこで言葉を切り、こちらを振り返った。
「手術をする事になっても、体力的に持たない可能性も・・・・否定出来ないんだ。」
そんな言葉を聞いた彩華の心は・・・一気に氷ついた。
“体力的に持たない”・・・それはつまり、死を意味していた。
「そんな顔をするんじゃない。あくまで、そうなるかもしれないという話だ。」
今にも泣きそうな顔をしている彩華の肩を、藤岡がポンポンと叩いた。
「そう、ですよね。そうと決まった訳じゃないですもんね。一番辛い思いをしている蒼空は・・・・私が支えてあげなきゃ。」
「・・・・ツっ・・・。」
目を覚ました蒼空はあたりを見まわし、そこに誰かの背中を見つける。
「・・・・父・・・さん?」
そう声をかけられて、京哉はこちらを振り返る。
「よかった、目が覚めたんだな。藤岡先生に急に呼び出しされたから、凄く心配したぞ。」
「あれ・・・・彩華は?」
蒼空は彼女の姿を探した。でも・・・いくら病室内を見ても、その姿はなかった。
「今日はまだ来てないそうだ。・・・・というかおまえ、何も覚えてないのか?昨日の事。」
「・・・・昨日の、事?だってさっき杉波先生と会って、その後彩華が・・・。」
蒼空の中の時間は、まだ昨日のあの時のままで、今の状況が分からず、混乱していた。
コンコン・・・。
病室の扉がノックされて、そこに彩華が入ってきた。“さっき”と違う、服装で・・・。
「今日は大丈夫そうだね、蒼空。昨日、あんな高熱出してるからビックリしちゃった。」
蒼空の中で何かがつながり、彼の時間が動き出した。
「――――そっか。あの後、何があったのか・・・・全然覚えてないや。」
自分が覚えているのは杉波先生が病室に訪ねてきて、話しているうちに具合が悪くなってきて、杉波先生が「私が直接、先生に言って来てあげる。」と言って出て行って、その後すぐに彩華が病室に入ってきた所までしか思い出せなかった。
「そっか・・・覚えてないんだ。」
少し悲しげな表情をした彩華に気づいて、蒼空は不安になった。
「昨日・・・・何があったの?」
「ないよ、何もっ。あの後発作が起きちゃったけど、すぐ先生が来てくれたから大丈夫だよ。」
「・・・・そっか。」
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