9話 夢と現実

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 見慣れた白い天井を見つめて、蒼空はそう小さく呟いた。  少しの間、病室内に沈黙が流れた。   ~♪ ~♪  それを破ったのは、京哉のケータイの着信音だった。それは電話ではなくメールだったようで、京哉はしばらくケータイの画面を見て、ケータイをポケットにしまった。 「部下から呼び出しだ。・・・・じゃあ彩華ちゃん、息子を頼むよ。」  京哉はそう言って、病室から出て行った。  二人だけになってしまい、再び病室内に沈黙が流れた。 「・・・・・。」  蒼空は窓の外に視線を向けて、溜息をついた。  別に昨日みたいに頭がボーっとしている訳ではなかった。あの後の事は確かに覚えていなかったが、頭の中に一つだけハッキリと残っている言葉があって、それが何度も何度も・・・繰り返される。 ――――『以前よりも・・・・心臓の病気の方が悪化しているんだ。』  その言葉の意味する事は分かっていた。いつかはそう言われるかもしれない事も覚悟はしていた。けれど本当にそうなると、決めていた覚悟の壁は脆くて、心が恐怖に支配されていく・・・。 「・・・・ツっ・・・彩華。」  怖さで体が震えてきて、蒼空は彩華を抱きしめて安心感を得ようとした。しかし、起き上がる力も今はなくて、何とか動かせた手で彼女の腕をつかんだ。   蒼空の異変に気付いた彩華は、彼が何を求めているのかをすぐ理解して、そっと抱き寄せた。 「・・・・イヤだっ。怖いっ・・・怖い、よっ。」  こんな子供みたいな姿を見せる事は、今までに何度もあった。覚悟の壁が何度も崩れて、そのたびにこんな姿を見せる。でも・・・こんな一面を知っているのは、彩華一人だけだった。 「大丈夫、大丈夫だよ・・・蒼空。」  彩華はいつものように、彼に優しく声をかける。 「あなたは消えたりしないわ。だって・・・ちゃんと私の腕の中にいるもの。」  自分だけが知っている、彼の心の闇。その闇を照らすのは・・・・私だけの役目だから。
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