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見慣れた白い天井を見つめて、蒼空はそう小さく呟いた。
少しの間、病室内に沈黙が流れた。
~♪ ~♪
それを破ったのは、京哉のケータイの着信音だった。それは電話ではなくメールだったようで、京哉はしばらくケータイの画面を見て、ケータイをポケットにしまった。
「部下から呼び出しだ。・・・・じゃあ彩華ちゃん、息子を頼むよ。」
京哉はそう言って、病室から出て行った。
二人だけになってしまい、再び病室内に沈黙が流れた。
「・・・・・。」
蒼空は窓の外に視線を向けて、溜息をついた。
別に昨日みたいに頭がボーっとしている訳ではなかった。あの後の事は確かに覚えていなかったが、頭の中に一つだけハッキリと残っている言葉があって、それが何度も何度も・・・繰り返される。
――――『以前よりも・・・・心臓の病気の方が悪化しているんだ。』
その言葉の意味する事は分かっていた。いつかはそう言われるかもしれない事も覚悟はしていた。けれど本当にそうなると、決めていた覚悟の壁は脆くて、心が恐怖に支配されていく・・・。
「・・・・ツっ・・・彩華。」
怖さで体が震えてきて、蒼空は彩華を抱きしめて安心感を得ようとした。しかし、起き上がる力も今はなくて、何とか動かせた手で彼女の腕をつかんだ。
蒼空の異変に気付いた彩華は、彼が何を求めているのかをすぐ理解して、そっと抱き寄せた。
「・・・・イヤだっ。怖いっ・・・怖い、よっ。」
こんな子供みたいな姿を見せる事は、今までに何度もあった。覚悟の壁が何度も崩れて、そのたびにこんな姿を見せる。でも・・・こんな一面を知っているのは、彩華一人だけだった。
「大丈夫、大丈夫だよ・・・蒼空。」
彩華はいつものように、彼に優しく声をかける。
「あなたは消えたりしないわ。だって・・・ちゃんと私の腕の中にいるもの。」
自分だけが知っている、彼の心の闇。その闇を照らすのは・・・・私だけの役目だから。
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