1話 再誕、約束

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「そこの三人、何をやっとるか!プリントはきちんと書いたのか?」  そこへ先生が険しい顔をしてやってきた。歳は六十近いらしいおじさんで、クラス担任の先生が急病で一週間休んでいる代わりに来ている、他校から転任してきたばかりの先生だ。担任の先生が病気だと聞くと「たるんどるから病気になるんだ!」とよくわからない事を言っている。  先生が蒼空の持っているプリントに目を向けて、溜息をついた。 「春野も水谷もしっかり書いているというのに・・・どうしたんだおまえは?」  朝のホームルームの時間に渡されたのは、“進路希望調査”の用紙だった。でも蒼空の持つソレには、何も書いていなかった。いや――――書く事が出来ないのだ。 「・・・なかなか、見つからなくて。」  一年前のあの時だったら・・・まだ書けたかもしれない。でも今の蒼空には、書ける事がなかった。    *  *  * 「藤岡先生、僕・・・大学とかそういうの、行けるかな?」  元々勉強が好きだった蒼空は、もっと色んな事を学びたくて、退院する少し前に主治医である藤岡に聞いた。 「・・・・行くつもりなのか?」  藤岡のその反応を見て、蒼空は答えを感じ取った。 「・・・・やっぱりダメか。だよね、こんな体じゃ。」  本当は泣いてしまいそうなのに、蒼空はそれを誤魔化そうとして、笑った。 「残酷な事を言うようだが・・・今の体では高校を卒業するのが精一杯だろう。」    *  *  *  今のこの体力で大学に行っても、体に大きな負担をかけるだけな事も聞かされた。今の蒼空が選べる道は、最初から決まっていた。 『高校を卒業したら・・・治療に専念した方がいい。』 ――――今の僕には・・・それしか選べる道が、なかった。  転任の先生が来て今日で四日目。蒼空の体はすでに、限界にきていた。今までと同じような生活だからこそ、何とか授業に出る事が出来ていたのに、この先生が来た初日の日から保健室に行こうとする蒼空に「たるんどる!」とかその他のお小言がつきまとう。出来るだけ言われないようにと、我慢できる範囲でその先生の授業の時は行かないようにしていた。しかし、そんな無理といつもと違う日常の変化は、とうとう体調に変調をきたしてしまう。
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