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発作で苦しいはずのこの状況でそんな事を言う蒼空に、藤岡は思わず吹き出しそうになる。
「・・・はっ。こんな時に何を言うかと思えば。抱っこで助けられるのがイヤとか文句を言うな。おまえが安静にしていないからこうなるんだろう?」
「・・・・そだ、ね。一番っ、悪いのは・・・・僕っ――――ゲホッゲホッゴホッ!ゼィ、ゼィ・・・。」
発作が酷くなって、蒼空は思い切り咳き込んだ。
藤岡はすぐに、準備していた点滴を蒼空の腕につけた。
「もう話さなくていい。だから、ゆっくり深呼吸しなさい。」
「・・・・ツっ・・・ハアッ、ハアッ!ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ。」
蒼空の意識は――――そこで途切れた。
* * *
僕はいつのまにかまた、あの白い空間に立っていた。
『蒼空、何だか浮かない顔ね。』
そう後ろから声が聞こえて、そちらを振り返る。
「・・・・母さん。」
『そんな顔の蒼空、私は見たくないわ。あなたは・・・強い子でしょう?』
「でも・・・・。してあげたい事はあっても、体が動かないんだ。僕はあの子に――――彩華にどうしても言いたい事があるのに。」
言おうとは思っても、発作がいつも邪魔をして・・・・いつもタイミングを逃してしまうんだ。
『・・・そう。丈夫に生んであげられなくて、ゴメンね蒼空。』
「どうして謝るんだよ、母さん。別に責めてる訳じゃないのに。」
『そうかもしれないけど、ゴメンね。だから―――。』
彼女はそっと、蒼空を抱きしめた。
『私が少しだけ・・・・力を貸してあげるわ。』
* * *
「・・・・?」
目を覚ました蒼空は、自分の体の変化にすぐに気づいた。いつもと同じ体のダルさは全くなくて、とても体が軽く感じた。
これは・・・母が蒼空の為にくれた―――奇跡の時間。
(ありがとう・・・・母さん。)
そう心の中で呟いて、蒼空は病室を飛び出した。
看護師達に見つからないように、そっと屋上を目指した。階段を上がっても、走っても、全然息が苦しくならない事が、不思議でならなかった。
屋上についた蒼空は、大きく息を吸い込んで、外の空気を体全体で感じた。もう冬に入った空は薄暗い雲でつつまれていた。肌に感じる寒さと、思い切り吸い込んだ冷たい空気が・・・・彼に季節を感じさせた。
「凄いや。何をやっても、全然苦しくならない。」
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