146人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
いつもならこの冷たい空気が気管を刺激して、発作を起こしているはずだった。いや、それ以前にここに来る事さえ無理だったはずだ。
~♪ ~♪
その時、蒼空が持っていたケータイが鳴った。
「はい、もしもし。」
“『はい、もしもし。』・・・・じゃないよ!今どこにいるの!?」”
その声を聞いた蒼空は、とても嬉しくなった。怒られている事は気にもとめず、言葉を続けた。
「なぁ、彩華。冬の空って、こんなにキレイだったんだな。」
“「冬の空って・・・・蒼空、どうやってそこに行ったの!?」”
「もちろん、自力で歩いて来たよ。」
蒼空は柵のある所まで歩きながら、そう言った。
“「自力でって、体・・・・大丈夫なの!?」”
「うん。今日はすっごく調子が良いんだ。だから・・・・大丈夫だよ。」
次の瞬間、電話が一方的に切られ―――。
「何が、『大丈夫だよ。』なのよっ!蒼空のばかっ!病室にいないから・・・・すっごく心配したんだからねっ!」
背後からそう声が聞こえて、そちらの方を振り返ると・・・・そこには、彩華が立っていた。
「なぁ・・・・彩華。」
「なぁに、蒼空?」
そう言って彩華は蒼空を見た。彼ははるか遠くの方をボーっと見つめたまま、言葉を続けてくる。
「出会った時の事・・・・覚えてるか?」
「もちろん覚えてるよ。出会ったばかりの頃の蒼空、ホント怖かったよ。まるでハリネズミみたいだった。」
「何でハリネズミなんだよ?」
蒼空は不思議そうに、そう聞いてきた。
「だって・・・・近づくなって空気が漂ってて、痛いんだもん。」
「そんなに僕、近寄りがたかったのか?」
「そうだよ~。でもそれがカッコイイんだって、女子達の間でよく盛り上がってたよ。」
「そっか・・・・。」
蒼空はそれきり何も言わず、またボーっとはるか遠くの方を見つめた。
それを見た彩華は、ギュッと蒼空の手をつかんだ。ボーっとどこかを見ている彼の姿は、何だかそのまま消えてしまいそうな気がしたのだ。
「何、彩華?」
「なっ、何でもないよっ。」
彩華は少し顔を赤くしてそう誤魔化すと、同じように遠くの方を見つめた。
昨日までは体調が悪くてほとんど動けなかった事が嘘のように、体の調子が良かった。でも・・・・今のこの時がいつまでも続く訳ではないと、蒼空はわかっていた。
自分に与えられた魔法の時間は―――限られていた。
最初のコメントを投稿しよう!