10話 不思議な力

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 いつもならこの冷たい空気が気管を刺激して、発作を起こしているはずだった。いや、それ以前にここに来る事さえ無理だったはずだ。   ~♪ ~♪  その時、蒼空が持っていたケータイが鳴った。 「はい、もしもし。」 “『はい、もしもし。』・・・・じゃないよ!今どこにいるの!?」” その声を聞いた蒼空は、とても嬉しくなった。怒られている事は気にもとめず、言葉を続けた。 「なぁ、彩華。冬の空って、こんなにキレイだったんだな。」 “「冬の空って・・・・蒼空、どうやってそこに行ったの!?」” 「もちろん、自力で歩いて来たよ。」  蒼空は柵のある所まで歩きながら、そう言った。 “「自力でって、体・・・・大丈夫なの!?」” 「うん。今日はすっごく調子が良いんだ。だから・・・・大丈夫だよ。」  次の瞬間、電話が一方的に切られ―――。 「何が、『大丈夫だよ。』なのよっ!蒼空のばかっ!病室にいないから・・・・すっごく心配したんだからねっ!」  背後からそう声が聞こえて、そちらの方を振り返ると・・・・そこには、彩華が立っていた。 「なぁ・・・・彩華。」 「なぁに、蒼空?」  そう言って彩華は蒼空を見た。彼ははるか遠くの方をボーっと見つめたまま、言葉を続けてくる。 「出会った時の事・・・・覚えてるか?」 「もちろん覚えてるよ。出会ったばかりの頃の蒼空、ホント怖かったよ。まるでハリネズミみたいだった。」 「何でハリネズミなんだよ?」  蒼空は不思議そうに、そう聞いてきた。 「だって・・・・近づくなって空気が漂ってて、痛いんだもん。」 「そんなに僕、近寄りがたかったのか?」 「そうだよ~。でもそれがカッコイイんだって、女子達の間でよく盛り上がってたよ。」 「そっか・・・・。」  蒼空はそれきり何も言わず、またボーっとはるか遠くの方を見つめた。  それを見た彩華は、ギュッと蒼空の手をつかんだ。ボーっとどこかを見ている彼の姿は、何だかそのまま消えてしまいそうな気がしたのだ。 「何、彩華?」 「なっ、何でもないよっ。」  彩華は少し顔を赤くしてそう誤魔化すと、同じように遠くの方を見つめた。  昨日までは体調が悪くてほとんど動けなかった事が嘘のように、体の調子が良かった。でも・・・・今のこの時がいつまでも続く訳ではないと、蒼空はわかっていた。  自分に与えられた魔法の時間は―――限られていた。
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